コラム

説明できる?部長と課長の仕事の違い

2024年05月10日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

部長と課長って、響きやイメージは違いますし、組織図でも位置づけは異なります。でも実は「役割の違い」が定義・明確化されていないことって、少なくないんですよね。組織によって部長と課長の役割は変わるものの、今回は原則論的な観点から違いを整理します。部長・課長クラスの皆さん、一緒に考えてみてください。
 

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
記事の末尾に動画リンクがあります。

 
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組織構成で浮いている管理職

部長と課長の役割って何でしょう。「そんなこと、会社の職務規程に書いてあるじゃない」「ドラッカーが言ってるよ」と思うかもしれません。正解を探そうと思えば、あちこちに答えめいたものはあります。しかし、咀嚼せず誰かの定義を丸呑みにするのは一種の思考停止かもしれません。

いま日本でも中国でも「浮いてる管理職」がいます。それに気づいたのが、今回このテーマを掲げた動機の一つです。

「浮いてる」と言っても周囲との人間関係の話ではなく、組織構成の話です。

例えば、課長以下がキッチリ仕事をしているために、部長の役割が曖昧になっている組織があります。頼りになるからと経営者も課長から直接報告を受けている。こうなると、部長は一応のポジションとしてはありますが、組織の中でどういう仕事をする人なのか、本人も周囲もわかりません。

逆もあります。部長が現場にどんどん口を出して、課長が組織構成から浮いてしまっている組織。部長が課長の部下にも指示を出すため、皆が部長の顔を見て仕事している。課長はどんな仕事をする立場なのか、微妙になっています。

「部長」「課長」というポジションを置く以上、やはりそれぞれに明確な意味を持たせる必要があります。もし意味がないなら一つにしてしまえばいい。分けるなら役割も違うはずです。

組織図モデルから離れる

部長や課長の位置づけは、組織図によって大きく変わります。役員・取締役→事業本部長→統括部長ときて、その下に部長を置いている組織では、上層がない組織と比べるとずいぶん重心が下がります。課長もそうです。課長と一般社員が直結しているパターンと、課長の下にグループリーダーがいる場合では話が変わります。 

規模や機能の異なる組織ごとにどんな階層をつくるかという話を始めてしまうと本題にたどり着けなくなるので、本稿では「経営者〜部長〜課長〜一般社員」が直結しているシンプルな組織を前提にします。
 

こういう組織を前提に課長の仕事、部長の仕事を考えてみます

 
部長の仕事と課長の仕事/定義は上から?下から?

改めてゼロベースで考え直してみると、仕事の定義は上から始めた方がいいのか、下からがいいのか、考え込んでしまいました。

下から上に定義していくのは違う気がする。担当者の仕事を決めてから、課長、部長、経営者と上げていくと、現場実務ありきの積み上げになってしまい、会社/事業という一つの有機体としての全体最適や大局観が失われてしまう。

じゃあ上から定義したらすっきりするのか。まず経営者がいて、その下に部長の仕事があって、それを踏まえて課長の仕事があって、それぞれ担当者がいる。

…なんですが、上から順番に定義していくと、上の方が理想論になりがち。理想論で上から順に定めていくと、担当者クラスにしわ寄せがいきます。定義した担当者の役割と、実際の業務実態が乖離してしまう。

ということで、今回はあえて上からか下からかを決めずに、両方から見てみます。(この組織の定義は上からか下からかの話、その後、私なりに一つの結論が見つかりました。いずれ別稿で書きます)。

 
部長と課長:目線の違い、部下の違い

部長と課長では、まず目線が違います。

部長は経営者の直属で、少なくとも経営目線を理解しています。課長や担当者では経営層から遠いし、直接薫陶を受けているわけでもない。経営者の目線、考え方、経営方針を理解すべきなのは部長です。

課長は、現場に最も近いまとめ役です。部長や社長は、普段から担当者と直に接したり、業務の指示をしたり、報告を受けたりしていません。現場目線や現場の今の実情を最も理解できているのは課長です。

もう一つの違いは部下です。

部長にとっての部下は、部下自身も管理者です。一方、課長の部下は実際の業務で機能を果たしている一般社員です。下が管理者の場合と、下が担当者の場合では、上司の果たすべき役割にかなり違いがあります。

ここまで考えてみると、まず「部長は大課長ではない」のは確かです。

会社によっては、課長も部長もやっている仕事は似たり寄ったりだけど、ベテランの方を部長にしていることも実際にあります。「ウチは部長といっても大課長ですわ」と自ら言われたりもしますが、目線と部下の違いを考えると、部長を大課長と定義してしまうと、部長は機能しません。それは部長という肩書きの課長です。

 
部長と課長を定義する:PDCAの観点

ここまでを踏まえて、まずはPDCAの観点で部長と課長を定義してみます。
 

PDCAの観点から定義する

 
ほとんどの日常業務は(特に日本の会社の場合は)課単位で回ります。製造、営業、品質、技術、総務、人事、経理もそうです。課長は、業務のPDCAを確実に回すためのリーダー。PDCAが滞ったら、時には担当者を兼務/代替して業務に入ったり、担当者や業務配分を調整したりして業務を回す。プレイングマネージャーになる場合もあるのが課長です。

一方、部長の仕事は、課長がPDCAを回せる状態を保証することと、PDCA自体を構築すること。業務のやり方を見直すとき、課長は業務の推進役ですから、自己破壊や自己否定は難しい。複数の業務をまとめて外部に出したり、現状のPDCAを再構築したりするのは部長の仕事です。部長はプレイングマネージャーになってはいけない立場です。

役割を一言でまとめると、課長は現場をよく知るリーダーであり、部長は部門の経営者です。部長は経営的目線・観点を持って、課長という管理者を通じて業務の展開を図っていく。資源を配分・配置し、ちゃんと機能しているかどうかをチェックして、手当てしていく立場です。

 
部長と課長のコンフリクト

問題は、それぞれが役割を追求すると、課長と部長の間にコンフリクトが起きることです。

課長は、真剣に業務に取り組んでいる人ほど現場が見えていて、現場の人たちの気持ちや状況がわかるので、現場ありき。経営に対して「いや、現場では無理です」「こういうものが必要です」と主張するのは、現場のリーダーとして現場目線で発言するからです。

逆に言うと、課長が上からの指示を伝えるばかりでは、現場は疲弊して機能しなくなってしまう。現場目線で現場の声を上に伝えていく役割は確かに必要です。

一方、部長は経営方針を理解して、資源配分の観点から下に注文をつける立場。経営目線であり、現場の気持ちまでは見えていません(見えていてもそればかり優先するわけにはいきません)。

すると、それぞれが真面目に役割を果たそうとすればするほど、課長と部長の間でバトルが起きます。

部長と課長の共通点…上司も部下もいる!

部長と課長が折り合いをつけるにはどうすればいいか。考えたのは、部長と課長の共通点です。それは、両方とも「上も下もいる」ことだと思います。

上のことも下のことも考えなければいけない、サンドイッチの具のような状態にいます。そういう意味では、部長はやや経営者寄り、課長はやや現場寄りという違いはあるものの、挟まれているのは一緒です。この共通点にフォーカスすれば、部長と課長はお互いの気持ちや立場がわかり合える関係にあります。

部門の経営者である部長と、現場のリーダーである課長をつなげ、対立ではなく協力関係を生むために、それぞれの役割に足すべき新しい要素は「ミドルとして一緒に緩衝材になる」ということです。
 

足すべき新しい役割

 
課長は現場のことが見えていて、現場の声を代表して上に上げていく。一方、部長は経営者の方針が見えていて、経営者の考えを噛み砕いて現場に落としていく。それぞれ下から上へ、上から下へという機能はしっかりと原則として保ちつつも、間に挟まっている点では立場が同じ。

挟まっている者同士で理解・共感しあうことで、会社の中の衝突・バトルを回避します。

これで部長と課長の役割がすっきりし、お互いのやるべきこともはっきりするでしょうか。役割は違うけれども、共通性を活かして連携する。

立場の違いや議論の土台は保ちつつ、経営者でも一般社員でもないからこそ、理解を深め合い、折り合ったり、協力したり、逆の立場に立って考えたりしていけると、組織はうまく機能するのではないかと思います(残念ながら、私は部長や課長を置かない組織を指向しているので、なかなか自社で試せませんが)。

海外拠点の場合

海外拠点の例に当てはめてみましょう。よくあるのは日本人部長の下に現地課長がいるケースです。こうした場合、部長はどんなにウズウズしても、課長を飛び越えて業務の指示を飛ばしてはいけません。

また、現地社員にとって課長が何となく”上がり”ポストになっていて、「私はもう課長だから現場の仕事はしない」と、口を出すだけ、あるいは報告を受けるだけになってしまう人たちがいます。これもマズい。

組織の機能から考えると、課長が現場を守り、理解して上に伝えていかないと、他に理解してくれるポジションはありません。課長はそういう認識・姿勢を持っている必要があります。

部長は、経営者目線を現場に伝えるにはどう噛み砕いていくかを考えながら仕事をし、課長の領分に手を突っ込んではいけません。

特に駐在員部長と現地課長だと立場の違いや言葉の壁が原因で断絶が起きやすいので、そこは工夫して部長から「厳しい議論もするけれど、間に挟まれて苦労してるという意味で、我々はお互いを理解できる仲間だよ」と声をかけてほしい。

経営者からは無理難題を振られるし、現場は現場で視野が狭くて、自分たちの都合でいろいろなことを上げてくる。その間で、部長と課長が一緒に緩衝材として機能していくこと、相互連携していくことを、部課長の職務定義に入れるといいかもしれません。

 
今日のひと言

「部長ができます」 実は貴重な人材

「部長ができます」はバブル崩壊の直後に流行ったフレーズ。転職したい中年が人材紹介会社に行き、担当者に「あなたは何ができますか」と聞かれて、「私は部長ができます」と答えたという笑い話からきています。

当時は「そんな人は世の中で通用しない」「どれだけ現実が見えていないのか」と笑われたのですが、部長と課長の違いを本当に理解した上で、「私は課長ではなくて部長としての役割が果たせます」と言うのであれば、この言葉には実は含蓄がある気もしてきますね。

見方を変えてみると、本当の意味で「部長ができる」人材は、非常に貴重なのではないかと思います。現場の業務がわかっていなくても、業界知識がなくても、組織の中で部長としての機能が果たせる人材なら、軽んじることなく、むしろ積極的に採用・登用すべきでは?なんて考えちゃったりします。

 

 
2024.05.10 note

この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。