コラム
評価面談が憂鬱でたまらない中国駐在員が試すべきこと 後編
前編に引き続き、評価者はどうすれば憂鬱な評価面談を打ち止めにできるのか、考えていきます。
↓ 前編から読む
小島のnoteをこちらに転載しています。
───────────────────────
評価者が試すべきこと
すぐ試そう① えんま帳をつける
えんま帳とは私がつけた俗称。今週自分の部下がどうだったか、感じたことをひと言以上メモしていくことです。正式には「評価者観察メモ」。
えんま帳というと、えんま様が持っている生前の悪行を細大漏らさず記録したものというイメージがあるかもしれません。しかし、検索してみると、実はえんま帳には「善悪ともに」記録されています。
評価者観察メモのポイントもここにあります。改善を要すること、注意したこと、お客様からお叱りを受けたことだけではなく、挑戦したこと、成長したこと、こちらが感謝したこと、その他肯定・賞賛したいことも全部対象です。さらに言えば、良い悪いの判断と関係ないこともメモします。
評価メモではなく観察メモなので、評価表をいちいち引っ張り出す必要はありません。注意・指導したらその内容を書き、上司として助かったこと、肯定したいことがあればそれを書く。特に何もなかったら「堅実に仕事をしていた」でいい。「最近は元気だ」とか、逆に「最近ちょっと元気がない」「体調が悪いようで休みがち」とか、何でもいいです。
これを評価対象となる部下全員に、毎週ひと言ずつメモします。部下が5人いるなら5人×ひと言。別にひと言に絞る必要はないので、時に週三つ四つメモしても大丈夫。最低一つはメモしましょうという縛りがあるだけです。
すぐ試そう② ・・・・
評価者が試すべきこと②。
……はありません。①だけで評価面談は劇的に改善します。
私自身が10年以上実践していますし、人事制度の構築・運用をサポートする場合は、最初から半ば強引に押しつけています。
ちゃんと使い続けてくれた企業からは「もう手放せない。大変は大変だけれど、これがなくては評価なんかできない」とか「評価のフィードバックが劇的に楽になった。小島さんが『評価が楽しくなる』という意味がよくわかった」という声が寄せられます。ここでもお勧めしておきます。
えんま帳のいいところ
週次でメモ→
えんま帳があると、評価者は毎週頑張ってひと言以上のメモを書きます。今週は書き留めることが多いなと思ったら多めに書いてかまいません。ただ、あまり気張るとしんどくなるので「一人につき一つは必ず何か書く」をベースにしてください。
週次で観察→
週次でメモするためには、毎週観察しなければいけません。今週、部下たちがどうだったかを知らずしてメモは書けない。すると、自分が出張でいなかったとしても、リモートで話すとか、同僚に聞くなどして様子を知ろうという意識が自分の中に芽生えます。メモを書くために部下の様子を観察するようになります。
週次で指導・フィードバック→
えんま帳が習慣化すると、部下のできていないところ、改善した方がいいところが表面化してきます。これはその都度フィードバックすべきです。私たちが運用サポートをしている場合は、「今週必ず本人にフィードバックしてくださいね」とプッシュします。
ちょこちょこ遅刻が増えているとか、不注意でお客様の名前を間違えたとか、送り先を取り違えたとか、同じようなミスが何度も起こったのであれば、「もうこれで今期3回目だよ。さすがに反省しないとまずいでしょう。今回は『申し訳ありませんでした』ですまさないで、根本的な対策を考えて提出して」というようなフィードバックをします。えんま帳にはフィードバックしたことも残しておきます。
評価時に期間全体を思い出せる
えんま帳を続けていくと、半期で25週分ぐらいメモがたまります。一人に対して25の着眼点・行動記録が残るというわけです。
評価表に照らして採点したものではないので、メモそのものは正式な評価になりません。自分で観察したこと・感じたことを書いただけ。それでも、メモは役に立ちます。メモがあると、半年前の記憶が蘇るからです。
1〜6月が評価期間だとしましょう。メモがない場合、5〜6月頃に頑張っている部下がいると、直近の印象だけで評価します。評価者も本人もです。悪気はなくても、最近の状況を踏まえて「今期は頑張った」と思っている。
ところが、25週分のメモを読み返してみると、1〜3月はかなり調子を落としていた。お客様からクレームが入り、上司も指導しています。評価は期間全体を対象につけるもの。この場合は「後半の5月、6月は素晴らしい。でも1〜3月は調子が悪かった。両方を総合して今期の評価」としなければなりません。
直近1〜2か月の印象で「頑張ったからA」と思っていても、評価面談で具体的なメモを元に、期初にお客様からクレームがあったことや、上司が個別に指導したことを言えば、部下も思い出します。ここで「そんなことはありません!」という人を私はほとんど見たことがありません。普通は「あ、確かに」となります。
冷静に指摘すれば、本人も「そうだった。前半はCでも文句は言えないな」という思いが心の中に生まれます。
評価時に具体的な事実を出せる
えんま帳に書いてあるのは、当然ながら具体的な事実です。メモですから完全に客観的とは言えませんが、捏造はなく、少なくとも評価者がその時点で感じたこと、見たこと、フィードバックしたこと、やりとりしたことがベースにあります。
感覚で「今期は頑張っていた」「もうちょっと頑張ってもらわなければ困る」というのとは、具体性のレベルが違います。
部下が自分の覚えている事例だけ一つ二つ出してきても、上司には全期間分のメモがあり、どんなことが起きたか、どんなパフォーマンスだったかを覚えている。「確かにこうだったね」「それ以外にこういうこともあったね。評価表に照らしたらこうなるよね」と記憶ではなく記録をベースに伝えられます。
評価者には当時の記録・記憶が残っていて、被評価者にはない(半年分のメモを残している部下にも会ったことがないです)となれば、説得力が逆転します。
評価が楽しくなった
えんま帳は大変ですが、半年続けると「評価が楽しくなった」と言う人が続出します。ダメ元で自己主張しようとやって来た部下をはるかに上回る具体的な根拠を準備して待ち受けることができるからです。
評価面談の冒頭で、社員(被評価者)に「まず読んでね」とメモを渡します。私たちがサポートする場合は、複数の評価者(経営者とか隣の部の部課長とか)のメモを全部まとめた資料を被評価者に渡すこともあります。
読めば部下もこの半年のことを仔細に思い出します。その上で改めて評価面談を始めると、すでに相当に気勢は削がれています。
なおも根拠の乏しい自己主張を展開しようとする部下には、「今回の評価は、さっき読んでもらった半年間のメモに基づいて、当時の状況を確認しながら整理したもの。他の管理者とも評価の妥当性を確認し補足を行いました。メモや評価に不明点・疑問点があれば具体的に指摘してください」と言うとほとんどは撃沈します。
もちろん、部下にマウントを取って満足していてはいけません。評価の目的は、来期に向けてどうやって成長してもらうかのフィードバック。今期の評価を踏まえて、来期は改善してほしいこと、引き続き頑張ってほしいことを伝えていきます。
評価面談が建設的な助言をする場になれば、評価は楽しくなります。フィードバックの材料をしっかり用意して、認めてあげたい部下にも、もっと頑張れと言いたい部下にも、ちゃんとメッセージが準備できている状態で評価面談に臨めるようになると、面談が憂鬱どころか楽しみになります。これは素晴らしい変化です。マイナスがプラスに転じます。
今日のひと言
評価者は今日からえんま帳をつけよう
これを読んでくれた評価者は「なるほどねー」で終わらせず、ぜひ今日からえんま帳をつけてください。つけ方は自由です。「外部の力がないと進まない・続かない」という人は声をかけてもらえれば、私たちがきっちりサポートします!
おまけ…拠点責任者は人事制度を改革してね
制度設計を主導できる立場の人は、ぜひ根本的に人事制度を改革して、社員がより求める人材像に近づいていくように、挑戦・成長・貢献した人から正当に報われるように作り替えてください。その上でえんま帳と組み合わせるのが最強です。
自社の人事制度には公平性が欠けている、あるいは時代に適応できる組織を作っていくには物足りないと思うなら、ぜひ改革に手をつけてほしいと思います。
2024.09.13 note
この記事を書いた人

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。