コラム
危機感に温度差!本社が現地法人を動かすには?【中国ビジネス】
現在の中国では、多くの現地法人の事業環境が悪化し、抜本的な手を打たないと慢性赤字に陥るという事態に直面しています。しかし、現地側はあまり抜本的な手は打ちたくない(打てない)、またはそこまで深刻な状況じゃないと感じていることも少なくありません。
こんな時、本社や統括会社はどう現実を打破し、現地をどう後押しすればいいのか。「現実を動かす」観点から考えてみましょう。
小島のnoteをこちらに転載しています。
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現地より本社が危機感を募らせている
温度差の変化
これまでは、危機感が強いのは現地法人側の方で、現地から窮状を訴えても日本本社の腰が重くて、というパターンが多かったように思います。ところが、今の中国については現地より日本側が危機感を募らせているケースも増えてきました。
世界情勢の変化や中国国内の情報環境も相まって、少し離れた方がより客観的に現地の様子が見える時代なのかもしれません。
悪化する業績を前に、本社側が「このままでは相当まずい、抜本的な手を打とう」と再三せっついても、現地の反応は「うーん、そこまで必要ですかね」「ちょっと検討してみます(で具体的な動きは見えない)」。
こんな感じで温度差がある時、本社はどうすれば現地法人を動かせるでしょうか。力関係では本社が上なので、最終的にはゴリ押しもできなくはない。でも、ゴリ押ししていいことは何もありません。
ゴリ押ししていいことはない
本社が改革を強制しても、実際に動くのは現地です。リストラをする、幹部を入れ替える、仕組みを変える、取引先・取引内容を見直すといったことは、日本からリモートでは無理。労働契約の見直しや取引先との交渉、裁判や仲裁、政府への説明など、どうしても現地側が動かなければならないシーンが多々あるため、腹落ちしていないのに無理強いすると、どこかで破綻をきたします。
実際の業務リスクを負っているのも現地側です。最悪の場合、ストライキが起きてラインがストップし、客先への供給責任問題が生じかねない。現地法人の業務リスクは全部本社で引き受ける、現地は手を出すなというなら強行できなくはないかもしれませんが、あまり現実的ではなさそうです。
結局、ゴリ押ししても日本本社は責任が取れないし、取りたくないというのが本音。何かあった時に日本の役員は「それは現地の問題」とか「現地で何とかしろ」と突き放すのではないでしょうか。本当の意味での改革、抜本的な対策は、やはり最前線の現地が納得していないとできないと思います。
本社と現地の温度差…7つの理由
なぜ本社と現地に温度差が生まれるのか、その理由を考えてみます。
①現地の認識に問題がある
世界的な視野で大きな動きを見ている本社には、「大きな潮流はこうだ」という未来が見えています。しかし、日々の業務に追われる現地側は、そういう大局的な変化に疎いことが多いです。
また、現地側は所在国での立ち上げから成長期しか経験していないため、未来に横たわっている変化は知る由もないというパターンもあります。一方、いろいろな拠点での蓄積がある本社は、これは南米で経験した、インドでも同じだった、だからこの拠点でも起きるはずだ、とこの先に起き得る変化が見通せています。こうしたことからもギャップが生じます。
②現地の認識がより客観的
逆に、現地の方が客観的に見えている場合もあります。数字や日本メディアの情報しかない本社は「中国はもうダメだ。その分を外に振り向けよう。いっそのこと撤退してしまったらどうだろう」という見解を持っている。しかし、統計データやメディアの情報と足元の様子には、必ずタイムラグがあります。
実際にいろいろな施策を打ちながら他社の動向などを見ている現地サイドは、「そろそろ底を打つな」とか「3年我慢すれば上昇サイクルに入るな」などと肌で感じていたりします。
このような認識ギャップがあると、ようやく苦しかった分を取り返すフェーズに入るところなのに、本社には見えず、みすみすチャンスを逃すようなことも起こります。あの時にリストラを強行して主力の大量流出を招いたのは間違いだった、現地が主張するように工夫して体力を温存し、再浮上を図ればよかったと後から振り返ることになるかもしれません。
③合理性より情を優先
温度差こそあるものの、実は認識には差がないケースもあります。現地もやらなければいけないとわかってはいる。ただ、駐在員に「自分の代でボタンを押したくない」という気持ちが働いて、前向きに取り組めない。我が身かわいさと言ったら言葉が過ぎるかもしれませんが、合理性より情を優先して消極的になっています。
④実行内容が不明確
本社から「やれ」と言われているし、現地もやらなければいけないことは認識しているのですが、今の状況下で何をやっていいかわからなくて動けないケースです。
現地もやりたくないわけではない。ただ、具体的に何をやっていけばいいのか、本社も一緒に考えてほしいという思いがあります。なのに本社側からは「具体的な施策に落とすのは現地の仕事だ」と言われてしまって進められません。
⑤実行方法が不明確
具体的にやらなければいけないことはわかっていても、どうやって実現するのか、方法がわからないケースもあります。
リストラや拠点の統廃合なんて、普通は経験者がいません。どんな手順で進めればいいのか、法律はどうなっているのか、どこにどういうリスクが潜んでいるのか、最悪の場合はどんな事態を招くのか、その回避方法は……。疑問や悩みは尽きません。さらに、こういう話は現地社員に相談できないとか、共有していいのか判断できないという場合も多いでしょう。
⑥実行に伴うリスクが不安
やらなければいけないことも、どう進めればいいかもわかっているのですが、リスクが不安な場合です。
問題幹部たちを一掃するというようなケースでは、当然ながらノーリスクで全員が粛々と去っていくとは考えられません。まず想定すべきは業務が人質に取られること。実際、裏で設備に細工をされて、不良が出るように仕込まれた会社もありました。また、改革の旗を振った経営者や駐在員が付け狙われるなど、人身の安全に懸念が生じることもあります。
大きな改革には猛反発・復讐・大反撃があり得るとなれば、不安から手が打てないことは現地事情としてあると思います。
このリスクには、本社から飛んでくる弾も含まれます。改革を迫ったのは本社にもかかわらず、いざ現地が動いて問題が起きた途端、「なんでもっと穏当にやらないんだ!」などと態度を豹変させる。この辺は現地も予想がつくので、安心して改革に突き進めません。前からも後ろからも弾が飛んでくるなんて、誰だって勘弁してほしいですから。
⑦実行後のリスクが不安
改革を実行した後のリスクも懸念材料です。問題の根を断ち切るところまでは何とかなっても、その後の業務に支障が起きないか、社内の士気は大丈夫か、焼け野原にした後の立て直しは誰がやるのか…と考えていくと、自分たち現地側が苦労するのが目に見えています。
これにも本社からの弾が含まれます。本社に言われたから頑張ったのに、改革の反動で少しでも苦戦しようものなら、すぐ次の弾が飛んでくる。「人を減らしたのになんで業績が下がるんだ、早く何とかしろ」みたいな。そんな状況に陥るくらいなら初めから動きたくないという気持ちはわかります。
問題別・現地の動かし方
問題はどれなのか
本社側としては、まず現地の温度が低い理由は一体どれなのかを見極めなくてはなりません。
冷静に耳を傾けたら、実は現地の判断の方が客観的かもしれない(前述②)。日本本社はメディアや周辺企業の情報に踊らされているだけで、きちんと紐解いてみたら現地の方が正確に状況を分析できていた。この場合、認識を改めるべきは本社側です。
現地の認識に問題があるように見える場合も、本当にわかっていないのか、わかっているけど動けないのかによって、動かし方は変わってきます。動けない本当の理由や事情はなかなか現地からは言えないので、本社が見極める必要があります。
認識に問題→数値と冷静な未来予測
現地側の認識に問題がある場合は、数値や冷静な未来予測など、反論が難しいデータを出してロジカルに説得します。
目の前にある現実、例えば手元のキャッシュ、期初の見込みと期末の着地点の乖離、来期再来期の見込みを並べると、どう考えても持続可能ではない。○年後にはこれだけの赤字を抱えることになり、現金が足りなくなる。増資か借入か、そこまでして維持する必要性があるのか…といったことを、データや根拠を出して説明し、現地の認識を改めていくことが必要です。
それでも納得しない場合は、1年間など期限を区切って客観的な数字でなりゆきを確認し、本社側と現地側、どちらの見方がより客観的だったのか検証します(結果はどちらの場合もあると思いますが)。
情緒的→共感しつつより大きい絵を
現地が合理性より情を優先して動けていない場合は、理詰めで押しても意味がないです。情で物事を動かす人、あるいは動かされる人に対しては、本社側もある程度、情に沿いながら進めます。頭から相手の感情を否定してはダメです。
現地トップの気持ちや立場は受け止めつつ、このまま情を優先して放置すると、より大変な状況になることを納得してもらわなくてはなりません。
現在の業績のままでは○年後には拠点自体を閉めるという議論になりかねない。全員を路頭に迷わせるような未来か、いま組織の一部に手をつけるか、我々としてどちらが苦しいだろうか、というように話を進めます。
または、攻めに転じて1年以内に利益が見込める状況に持っていけたらこのまま維持できるが、1年後に反転できなければ拠点の撤廃に向けて動くことになる。1年間、期限を区切ってチャレンジしますか、という進め方もできます。
つまり、感情で動く人には、選択肢を提示して、感情でどちらがマシか選んでもらうのがおすすめです。
ただの優柔不断でなく本当に情がある人で、拠点トップで赴任するような駐在員であれば、どちらかしか得られないことはわかるはず。拠点を失うのは何としても避けたいという思いに至ってもらえたら、厳しい施策にも協力してくれると思います(傷を深めないように配慮は必要です)。
実行内容・方法→プロを招聘
何をすればいいかわからない、方法がわからないという場合は、プロを呼ぶのが早いです。弁護士にしろ、コンサルタントにしろ、現状と目標を示せば、そのために何をしたらいいのか、優先的にやるべきことは何なのか、議論して整理できます。
やるべきことが見えたなら、具体的な方法論、どういう計画を立てて、どういう順番でやっていけばいいのか、想定しておかなければいけないこと、準備するべきことは何なのか、確認しながら進められます。Howの話は、実は簡単です。
ここで本社側が「改革コストは業績から除く、全部織り込んだ上で進めてくれ」と言っておくと現地は動きやすくなります。
改革を進める中で業績が悪化したら本社から弾が飛んでくるというのでは、いくらプロが入っても現地はやりにくい。本社が現地を動かしたいのであれば、現地が動きやすくなるように、本社も責任を引き受けることは必要です。
リスクが不安→プロ+支持
実行中または事後のリスクが不安なら、これもプロを呼んで盾や参謀役になってもらうといいでしょう。それに加えて、本社の支持も欠かせません。
本社がやれと言う以上は共同責任です。客先にお詫びをしなければいけない、事前に了解を得なければいけないような時は日本側もサポートすると伝えます。前から飛んでくる弾にはプロが盾になり、後ろ(本社)から弾は飛んでこないという確信があれば、現地はずいぶん楽になります。
それ以外→適任者に交代
最後はどれにも当てはまらない場合です。現地は、理屈じゃない、とにかく嫌だと言っている。理を尽くして、あるいは情に訴えて話をしても、全然動いてくれない。こういう場合、拠点の状況が本当に待ったなしであれば、赴任者の交代も視野に入ると思います。
不適任な人を残したまま新しく人を派遣してもやりにくいだけなので、適任者をトップにつけ、腰を据えて改革に取り組める状況を作る必要があります。
今日のひと言
北風より太陽、べき論より仕掛け
本社が現地を動かす方法は「北風より太陽」。そうでないと結局は動きません。
理詰めで迫るだけが能ではなく、仕掛けも重要です。現地が動きやすくなる、動かざるを得なくなる、自ら動きたくなる仕掛けが必ずあるはずです。
太陽に照らされた旅人のように、自ら外套を脱ぐ気持ちになってもらうためにどう持っていくか。べき論で論破するのではないことだけは確かでしょう。
身内が言っても聞かないけれど、外部の人に言われるとなぜか耳を傾ける、というのは世界共通の現象みたいです。弁護士でも我々でも、必要な時はダシに使ってください。外側から必要性を聞かされれば、現地も納得するかもしれません。
この記事を書いた人

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。