コラム

仕事ができる経営者の「現場との関わり方」

2024年07月19日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

中国で出会う日系現地法人の経営者・リーダーは、だいたい現場大好きなタイプ、会議室大好きなタイプ、自席大好きなタイプに分かれます。

会社のプロフィットセンターはどこか。現場でしょう。だから私は「現場に関心を持たないトップは仕事ができない」と見なしています。

ただ、現場に関心を持つ人たちも、実際の振る舞いは、現場に足繁く通う人と、我慢して行かない人に分かれます。

今回は経営者と現場について。特に中国の現地責任者に読んでほしい回です。

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
記事の末尾に動画リンクがあります。

───────────────────────

中国で出会う経営者の3タイプ

私が中国で出会った日系現地法人のトップは、大きく分けると3タイプです。

・現場が大好き
・会議室が大好き
・自席が大好き

現場が大好きなタイプはしょっちゅう現場に行きます。ほぼ自席にいません。営業メインの拠点であれば、しょっちゅう客先に行くのもこのタイプ。

会議室が大好きなタイプは、すぐ会議を開きます。多いのは日本語メインの会議をどんどん入れる人。日本人駐在員と会議室にこもりがちの人もいます。

自席が大好きなタイプは、パソコン仕事や日本側とのやり取りに熱心で、とにかく自分の席から離れません。

この3タイプ、別にどれでも問題ありません。ただ、現場に関心が薄い人は論外。言い方はちょっと強いですが、私は本当にそう思っています。

例えば、販売・営業サービス業では、現場は顧客との接点そのものです。お客さんとの接点に関心がないということは、自分の事業に関心がないと言われても仕方がないです。

ものづくり・製造が中心の拠点では、会社の価値を生んでいるプロフィットセンターは当然、現場です。現場に関心がないということは、自社の創出価値・利益に関心がないということ。これまた論外です。

トップは現場好きでも会議室好きでも自席好きでもいいですが、現場に対して無関心あるいは関心が薄いのは現地責任者としてまずいと思ってください。

私が現地で知り合った「できる経営者」たちは、おしなべて現場を重視していました。私の経験から断言できます。間違いなく現場を非常に大事にし、尊重していました。

できる経営者と現場の関わり

仕事ができる経営者に共通しているのは、現場に強い関心を持っていること。製造メインの拠点だろうが、販売/サービスメインの拠点だろうが、ここは同じです。

しかし、同じように強い関心を持っていても、それぞれの振る舞いには違いがあります。違いが生まれるポイントは、私の観察では「自分の他に現場責任者がいるかどうか」です。

現地の工場長や営業部長などは別として、自分と同じ立場の赴任者の中に、役割分担上、自分より現場に対して大きい責任を負っている人がいるかどうかで、振る舞いが変わるようです。

自分自身が現場責任者の場合

これには、もともと現場出身ではないけど、他に現場責任者を務めるべき赴任者(駐在員工場長など)がいないために兼務するパターンも含みます。

朝巡回→昼も午後も行く

こういう人たちは本当によく現場に行きます。工場なら、朝会社に来たらまず巡回。朝礼の様子も見に行きます。昼も午後も現場を見に行く。

「総経理(現地社長)どこ?」と聞かれた従業員が口を揃えて「また現場でしょう」と答えるぐらい、現場を回るのが大好きです。

営業・販売拠点だと現場=各拠点/店舗だったりして、場所があちこちに分かれていることもありますが、とにかく現地に赴きます。

基本的に自席にいないし、会議室にもあまりいない。工場でも販売拠点でも最前線に出かけていくことが多いです。

自分から話しかける

現場で何をやっているのか。別に指示を飛ばすとか自ら管理するとかではなく、働いている人たちに「やあ、元気?」と挨拶して回り、自分から話しかけます

現場にトップが来たとなると現地社員は緊張して、向こうから挨拶や案内に集まってくることもありますが、「私のことはいいから、自分の仕事に専念してて」「自分で回るから気にしないでいいよ」と受け流し、好きなように動き回ります。

そして何か普段と違うことが起こっているのを見かけると、これもすぐ話しに行きます

例えばラインが止まってるとか、人が集まってるとか、議論してるとか、そういう光景に出会うと、「何してるの?」「今どうなってるの?」と声をかけ、状況を把握しています。

時には注意・指導もする

現場を見て回っていると、時には注意・指導を徹底できてない場面に遭遇します。

不良が発生しそうだったり、お客様向けのサービスに行き届いていないことがあったりすれば、必要に応じてその場で注意・指導し、場合によっては代わりにやってみせる人も多いです。

直属の上司やその上の上司筋を飛ばしてトップが注意・指導するとまた別の問題が起きるものですが、彼らの場合は違うように見受けられました。

「できる経営者」たちは、現場でいい仕事をすることに対する思い入れや、ルールを徹底したいという強い気持ちがあるので、ついそれが直接注意や直接指導の形で出てしまうようです。

サーッと表面だけ眺めて帰っていくのではなく、現場の人に現場のことをよく聞き、場合によってはやってみせる。これが「自分が現場責任者の場合」に共通する振る舞いです。中国に限らず、他国でも同じような光景を見かけました。

自分以外に現場責任者がいる場合
我慢して控えめに
一方、自分以外に現場責任者がいる場合は、我慢して控えめに振る舞う人が多いです。工場長など製造のプロは別にいて、自分は管理や営業部門を統括する立場だったり、総経理と副総経理、総経理と工場長で職務分掌していたりする場合です。

この人たちも現場を重視していることに変わりはありません。ただ、気にかけてはいるものの、あまり頻繁には行かない。役割分担している相手に配慮しているのではないかと思います。

現場の責任者は副総経理・工場長だとはいえ、総経理が来れば従業員の関心はそちらに向かうし、何か指示をすれば現場は従ってしまう。それを自覚しているため、現場責任者を尊重して、あえて行かないんでしょう。

状況はよく把握
現場に行く回数は少なくとも、状況はよく把握しています。工場長や副総経理と密にコミュニケーションを取り、たまに現場に行くと自分でいろいろ見てくる。現場担当者たちの顔と名前が一致している総経理も多いです。

機会があれば喜んで
全社活動があると、喜んで現場に行きます。挨拶運動、5S徹底週間、安全強化月間……、さまざまな名目で全社として取り組む活動ってありますよね。

総経理は全社活動の責任者でもありますから、こういう機会には喜んで現場に行きます。率先して標語入りのタスキなど着け、挨拶して回ったり、安全を確認して回ったりします。

他の現場責任者が出張や休暇で不在の時も、代わりを買って出ます。中には指導するほどの専門知識を持たない人もいますけど、それでも現場に行きます。

機会があれば喜んで行き、どんどん現場の人たちに声をかけ、一人ひとりがどんなタイプなのか、仕事ぶりはどうか、直接自分で聞いたり見たりして把握します。

本当は行きたいんだけどなるべく行かないところと、機会があれば喜んで行くところは、自分以外に現場責任者がいるトップの共通点だと思います。

いずれにせよ、現場に強い関心を持っている点は、すべての「できる経営者」に共通しています。

今日のひと言

現場は事業の源。言葉の壁は関係なし

現場というのは、どの現場にしても、事業の源です。

会社によっては開発や革新技術こそが利益の根源だという場合もありますから、現場が全てだとは言いません。しかし、現場がプロフィットセンターではないということは普通はあり得ない。

現場は利益を生む最前線。「できる経営者」たちは、強い関心を持ち、足を運び、自分から現場の人に声をかけています。

特に海外拠点では「声をかけると言ったって言葉も分からないし」と思いがちですが、私が見てきた人たちは言葉の壁は特に気にしていませんでした

現地語は5単語しか知らないのに、常に現場に入り浸ってミニホワイトボードで筆談していた強者もいるほどです。

こういう総経理は、現場の人に慕われます。そうなると、多少無理な挑戦課題を与えても、現場はガッツで乗り越えようとしてくれます。現場と関わる価値はあると思いませんか。

言葉の壁は関係なし!現地に行ったら、ぜひ現場を大事にし、尊重し、よく把握してください。

他に現場責任者がいたとしても、やはり現場を大事して、現地でのミッションに臨んでほしいと思います。

2024.07.19 note

この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。