コラム
自己利益が最優先な中国人管理者の扱い方
中国で日系企業経営者の相談に乗っていると、「中国人管理者がどうしても自分の損得勘定から離れられない」「一社員目線から抜けられない」という相談の多さが気になります。
「なんとか啓蒙・指導してやってくれ」と頼まれて、私やチームのメンバーが面談したり、議論したり、ときには壁打ち相談をすることもあります。
経営者は「悪いヤツではない」「本人なりに真面目にやってはいる」と言うけれども、どうしても自分の利益や都合から離れられない。そんな中国人管理者をどう扱えばいいのか、どうコミュニケーションをとるか、考えてみましょう。
小島のnoteをこちらに転載しています。
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管理者の役割を果たさない人たち
自己利益が最優先な中国人管理者の扱い方について。さっそくよくある実例を挙げていきましょう。
実例① 部下を注意しない、部下を指導しない
部下の問題行動が見えているのに注意・指導しない管理者がいる。タバコやゴミのポイ捨て、飲食禁止の場所・時間での飲み食い、私物の置きっぱなしなど、見ているのに注意・指導しない。
実例② 部下に教えない、部下を育てない
常に自分の仕事や顧客対応を優先する、あるいは自分で実務を抱え込んでしまうため、その人の下ではいつまで経っても部下が育たない。
なぜ役割を果たさないのか
こんな管理者たちは、一担当者としてやるべきことはちゃんとやっていることが多いです。しかしそれではダメですよね。管理者として、部下を育てること、組織全体の業務がどう回っているかを管理監督することを求められているのに、その役割は果たしていません。
なぜ役割を果たさないのか。
・そこまでやるのは面倒くさい。
・待遇に差がないのに自分だけ頑張るのは損。
・部下に嫌われるのはイヤ。
・他の管理者がやっていない中、自分だけ真面目にやると浮く。
このあたりが理由です。
自分だけ一生懸命に取り組んでも、部下たちから「なんで突然やる気になって我々の部署だけ締めるんですか」「他の部署はやってないじゃないですか」などと言われる。だから部下を育てたり、面倒を見たりしない。我が身可愛さであり、自己都合ですね。
組織より自分を優先する人たち
実例③ 制度/規定改定で自分(社員)目線
人事制度や就業規則などを改定するとき、会社目線やマネジメント目線ではなく、一社員としての目線から意見する管理者がいる。会社をよくしていくための仕組みを考える役割を求められているのに、自分の給料をもっと上げてくれとか、自分にもこういう手当をつけてくれとか、制度を適用される側の目線から脱却できないタイプ。
実例④ 就業規則の改定に抵抗・反対
就業規則の改定時に、管理の質を高めるルールの導入に率先して抵抗・反対する管理者がいる。「この規則は厳しすぎる」「こんなことをやったら社内が混乱する」などと主張する。ルール自体は当たり前のことなのに。これも一労働者の立場で見ていることが原因。どうしても「組織全体をよくするため」という目線が持てない。
実例⑤ 人事制度改定で自分にお手盛り
制度や規定の見直し時に、しれっと自分に有利な内容を盛り込む人がいる。マネジメント専従者(現時点で該当者は自分一人)の手当を増額したり、上級管理者だけ賞与に特別枠を上乗せしたりする。一般社員の目線や気持ちなど考慮せず自分を特別扱いしてしまう。
実例⑥ 施策の検討時に組織目線がない
「会社として厳しい状況が続くので引き締めていこう」「こういう新しいことに挑戦しよう」と日本本社や現地トップに言われ、現地の旗振り役を頼まれているのに、やっぱり組織目線を持てない管理者がいる。組織全体をどうしていくかという発想がない。完全に一社員の立場で、あくまでも自分目線で施策を考えてしまう。
なぜ自分の利益を優先するのか
こんな管理者たちは、全体の利益よりも自分の利益をついつい優先してしまっています。
会社としては、少なくとも自分が責任を持っている範囲ではチームのためという視点を持ってほしい。役職が上になれば、全社利益・全社最適という観点から物事を見る必要がある。
自分の利益を主張するなとは言わないけれど、マネジメントする立場なんだから、チームファーストで組織を率いていかなければならないのに、なかなか頭を切り替えてくれません。
どうしてそうなってしまうのか。
・自分が損をするのはイヤ
・まずは自分が得しなければ
・「会社」は○%$#*
この辺りが理由です。
ちなみに三つ目は、会社より自己利益を優先しがちな人によくある口癖です。優秀なマネージャーは、会社と自分を分けて話しません。「会社としてこういうことをしていかなければいけない」と言う時には、会社の中に自分も入っています。当然、自分もリードする立場という前提です。
一方、自分の利益を優先する管理者は「『会社は』こういうことをしてくれない」「『会社は』もっとこういうことをやってほしい」のように、常に自分を「してもらう側」に置き、リードする人は別にいるという前提で話をしてしまいます(こういう発言が頻繁に出てくる管理者は、自分の利益を優先するタイプである可能性が極めて高い、とも言えます)。
こういう人は、本質的に「当事者意識が欠如」しています。
他者を犠牲にしても利益を得たい人たち
実例⑦ 自分の利害で情実・懲罰人事
だんだん深刻になってきました。人事権を持っている人が自己利益優先で、情実人事・懲罰人事を好き放題にやってしまうケースです。
工場のリーダー、人事部門の責任者、副総経理のような経営幹部が、自分の利害や好き嫌いで情実人事をする。人間ですから好き嫌いはあって当然ですが、人間関係における利害を優先して、自分の子分をあからさまに優遇する。あるいは見せしめの懲罰人事で、自分になびかない人を痛めつけたりします。
経営者だって、そんなことをしたら人心が離れていくのでやるべきではないです。とはいえ、トップは最後は結果責任を自分で取るし、やむを得ないかなと思う時もあります(おすすめはしませんが)。こういう管理者たちは責任を取る立場でもないのに、自己利益のために人事権を使っています。
実例⑧ 業者選定時に結託相手を選択
実例⑨ 自分で会社を立て自社と取引
業者を選ぶ時に結託相手を選択するのも典型的です。もっとひどいと、会社と取引させるために自分・家族・親戚・知人などの名義で会社を作ります。これはもう犯罪そのもの。背任行為です。
実例⑩ ストライキを黙認/扇動
ストライキを察知したのに、止めると自分が槍玉に挙げられるからと上に報告しない管理者がいます。説得して止める立場であるにもかかわらず、自己保身のために黙認してしまう。または経営者や日本側に知らせず黙殺する。
自分が経営者や会社に不満を持っていると、表に出ずにストライキを扇動する人もいます。これも管理者としては完全に職責失当であり、背任行為です。
番外 passを個人的相談で利用
深刻なケースではありませんが、私たちの会員サービス「pass」で相談を受けていると、たまに「あれ?これって本当に会社のための問い合わせ?もしかして自分が今後解雇・降格されたらどう会社に対抗するか準備するために聞いてない?」と思うような質問が来ます。
私たちは「ん?」と思った時には現地トップ(契約者が日本の場合は日本本社)に裏を取ります。いつもの担当者だからといって聞かれたらそのまま答えるということはないので、ほとんどの場合は未然に防いでいると思いますが、明らかにおかしい質問をしてくる人はいます。
こうした管理者は、「全体より自分優先」からさらに進んで、全体利益を犠牲にしてでも自分の利益を得ようとする人たちです。中国駐在員なら、具体的な例の一つや二つ、心当たりがあるんじゃないでしょうか。
自己利益中心の管理者の扱い方
35歳を過ぎたら価値観は変わらない
まとめると、自己利益中心の管理者には3種類のタイプがいます。
①管理者の職責を果たしていないタイプ
②全体の利益より自分の利益を優先するタイプ
③全体の利益を犠牲にして自分の利益を追求するタイプ
こういう人たちと向き合う時、私には一つ前提があります。それは、35歳を超えたら人間の価値観は変わらないということ。少なくとも外からの力で変えることはできないと思っています。
もちろん、本人が努力して、あるいは変わろうとして変わることは何歳になってもある、とも思っています。でも、会社で経営者や日本側があれこれ世話を焼いたところで、35歳を超えた人間の価値観は簡単には変わらない。この前提で私は物事を考えています。
扱い方の基本原則
先述した3タイプの扱い方について、私の基本原則をまとめます。
タイプ①の管理者は、部下は見えていませんが、自分の仕事はできていて、まだ管理者としての職責が果たせていないという状況です。この人たちには猶予・チャンスを与え、鍛錬を試みます。
タイプ②のどうしても全体より自分の利益を優先してしまう人、会社目線を持てない人は、管理者には適さないと思います。そのポジションから外すべきです。
タイプ③の他人を犠牲にして自分の利益を貪る人は、解雇するしかないです。
他人が見えていない管理職の鍛え方
不適切な人にポジションから降りてもらう話、解雇の話はまた改めてするとして、管理者としてまだ職責を果たせていない人たちとどう向き合うか、もう少し考えてみます。
ポイントは二つあります。
一つは、任命する時にちゃんと任命書を渡すこと。会社が何をしてほしくてこの役職を付けるのか、役割を認識してもらいます。
そして役職には任期を設定します。「この期間で、この役割を果たしてください」ということです。役割を果たしていないと判断したら、任期満了で一旦リセット。次は他の人を任命してチャンスを与えます。
もう一つは評価と処遇の連動です。会社が求めることを評価表で明確化し、それができていたかできていないか、やっていたかやっていないかで、処遇・昇格・降格・登用などに連動させます。
最初に見たように、この人たちが部下を管理しない理由は、「面倒くさい」「給料に差がないのにやるのは損」「嫌われるのはイヤ」「自分だけ真面目にやっても」でした。
ということは、部下の管理・育成・指導は管理者としての重要業務であり、 真剣に遂行しないと損だ、交代させられるという状況に持っていけばいい。それも口先ではなく仕組みでがっちり持っていきます。
やらなければ役職から降ろされ、評価は下がる。管理者としてのパフォーマンスが自分の処遇や等級、影響力や実入りにダイレクトに影響する環境を整えて、鍛錬していきます。
これにはトップも真剣に取り組まなければなりません。私のお勧めは、1年間の期限付きで真剣に向き合うこと。「変わってほしい」というメッセージを出し、結果を実利に反映する形にして、それでも変化がなければ役職不適任として扱います。
ここのポイントは「変化がなければ」。つまり、いきなり1年で管理者として合格ラインに達するとは思わないこと。そこまでは要求しません。1年間、真剣に向き合って、相手が変わり始めたら、2年目、3年目も引き続き応援します。
しかし、5年、10年経っても独り立ちできず、合格ラインに届かなかったら話は別です。鍛練期間は長くて3年かなと思いますが、その間は付き合います。
1年経った時点で変化がなければ、管理者には不適任。役職から降りてもらう方向に持っていくのがいいと思います。
今日のひと言
本当は全部アウト(DACは1年目でアウト)
今日の話、実はずいぶん甘口です。私の本音では、こんな社員は全員アウト。相談されれば「本来昇格させてはいけない人でしたね」「できなかったら役職から一旦降りてもらいましょう」「もう会社に置いておけませんね」と言います。
自社(DAC)では、新入社員の1回目の労働契約期間を、なんと9か月に設定しています。9か月のうちに自己利益優先の振る舞いをした人、チームファーストが理解できなかった人、指摘されても目線を変えられなかった人は即アウト。契約満了で船から降りてもらっています。
「そうは言っても現実には業務もあるし、なかなか難しいんだよ」と思うかもしれませんが、今日の話だって相当甘口なんです(DACでは、業務があるから辞めさせられないという状況にならないよう、組織に余力のあるうちに採用を行います)。
本当は、もっと厳しくしないと組織は成長しませんよ、自立して挑戦するようにはなりませんよ、と言いたいです。
この記事を書いた人

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。