コラム
採用改革…中国の採用現場で学んだ面接の限界とその対策【中国駐在サバイバル】
タイトルに「中国の採用現場で学んだ」と入れましたが、中国ならではの特殊性はあまりないかもしれません。日本やそれ以外のエリアでも、この考え方で8割以上はいけると思います(残りの2割は各国の法律・人材市場の違い)
人材採用に関わってきた人なら骨身に染みているとおり、書類や面接で人物を見極めることなど不可能です。ましてや最初から偽るつもりで準備してきた人を限られた時間で見抜くなんて到底無理。
面接でどこまで見極められるのか、見極められないならどうすればいいのか。今回は対策まで考えます。何度も繰り返しますけど「採用は人事でなく経営の課題」ですよ!
小島のnoteをこちらに転載しています。
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採用の課題
採用の課題をザックリ分けると、①応募してくる人が少ない、②採用条件に合致する人が足りない、③真の適否がわからない、の3つです。
少子化など社会構造の変化で、そもそもの応募母数が少なくなると、当然の帰結として採用条件に合致する人も足りなくなります。採用した後に「ちょっと違ったかな」「まずい。とんでもない人を採用してしまった」となることもあります。今回は③を中心に「どうやって適否を見極めるか」を考えたいと思います。
まず、冒頭でも述べたように、面接で適否は見極めきれません。
私は中国に渡ってから最初の10年ほどは人材紹介を仕事にしていました。今は紹介業務からは手を引き、企業側の採用支援を手がけています。また、自社でもほぼ毎年新人を採用しています。特にここ数年は採用数を限定せず、いい人がいればいつでも入社してもらえるように常時採用活動をしています。
これだけ採用に関わった上での結論が「面接で見極めは無理」。もちろん面接に改善・向上の余地がないとは言いませんけど、面接だけで真の適否を判断する決定的な方法はおそらくないでしょう。それを前提に対策を考えた方が効果的です。
DACの経験簿
まずは事例から。自社採用と他社支援の現場で、やっぱり面接での見極めは難しいと実感したケースをご紹介します。
【Case1】凄腕詐欺師はどんくさい奴
これは中国ではなくASEANの話。ある会社から日本人A君を現地採用したと聞きました。経営者が言うには「ちょっと抜けてるんだけどね」。トロいけど愛嬌があるし、一生懸命だからということで採用したようです。
1年ほど経った頃。社内が「最近どうしたんだろう」とざわつき始めました。会社の中で物がなくなることが増えてきたのです。「なんだかおかしい」の声が大きくなってきたある日、A君の消息がプツンと途絶えました。住んでいたマンションはもぬけの殻。届け出てあった連絡先にもまったくつながらない。
きちんと調べてみると、A君の在職と時を同じくして相当な量の会社の金品、従業員の私物がなくなっていました。このA君、実は天才的な詐欺師だったらしい。スマートなやり口から見て、前科も相当あるでしょう。でも、この会社では最後までどんくさい愛されキャラを演じていました。本物はすごい…。
【Case2】本当に好青年なのに
私たちが人材紹介業時代に扱った事例です。当時は毎年何百人も面接していたので、人を見る目はそれなりにあるつもりでした。お客様にご紹介するのは必ず複数人で複数回の面接をしてOKが出た応募者だけ。B君はそんな私たちから見ても、受け答えに不自然さのない、さわやかな好青年でした。
ただ、一つだけ引っかかった点があります。「日本語1級の資格証が故郷に置いたままになっている。間の悪いことに実家が引っ越ししたばかりで、荷物を開梱しないと取り出せない。採用が決まったら取り寄せます」と言うのです。他は何も問題なく、むしろ好評価だったので、資格証の原本を確認しないまま、お客さんにご紹介してしまいました。
不幸中の幸いは、このお客さんが堅い業種の会社だったこと。入社時に人事で丹念に必要書類をチェックされ、あとは日本語の資格証だけとなりました。最初のうちは形式的に催促していた人事も、なんだかんだと言い訳して一向に提出しないB君に督促の程度を強めます。
二週間ほど経ち「社内規定で、書類が揃わないと入社手続きが完了しない」と最後通告をしたところで連絡がつかなくなりました。おそらく日本語1級資格は持っていなかったんでしょう。
後から突き合わせていくとポロポロと矛盾が出てきて、この好青年はいくつも嘘をついていたらしいことがわかりました。私は人生で初めて、始末書を書き改善策を添えてお客様のところに飛んで行きました。
ひと段落してから、社内の関係者で何度も「どこかに兆候があったのでは」と分析を行いました。書類選考、面接前の電話とメールのやりとり、一次面接、二次面接……、しかしどこにも兆候は見つかりませんでした。やっぱり関係者全員が高評価・好印象。これは面接だけで見抜くのは不可能だ、面接以外で対策を取るしかないと結論づけました。
【Case3】ハイ過ぎて見送った
これは自社採用のケース。応募者は名の知れた大学を今年卒業予定、面接の内容や態度もよく、面接官の判断は「採用可」。私も入る最終面接に回ってきました。
話していて優秀なことはよくわかりました。画面越しにも伝わるくらい元気で明るく積極的。ただ、何かがちょっと引っかかる。根拠を問われても、経営者の嗅覚としか言いようがなく、違和感の正体は自分でもわかりませんでした。
その後、短期アルバイトや社内イベントに招いて観察しても、この感覚は変わりませんでした。私以外の面接官は採用可の判断だったので迷いましたが、私の決断で正式採用は見送りに(余談ですが、DACでは面接官のうち一人でも積極的に反対したら採用は見送ります)。
採用責任者が見送りを本人に告げたところ、「こうなったから言うけど、実は何年も前から抗鬱剤を飲んでいる」と打ち明けられたそうです。面接官たちは、テンションが高すぎるところを気にしていたら逆に鬱だったとは…と驚いていました。
躁鬱傾向があるから不採用ということはないものの、そのまま入社していたら、おそらく面接時の印象とは大きく違った働き方になったはずです。今回は採用を見送った後に服薬のことを聞いたわけですが、もし事前に知ったらどうするか、経営者としてはまた別の難しい問題だと感じました。
【Case4】紹介会社とHR部長がまさかの結託
かなり昔、超大手の客先であった話です。当時、私たちとやり取りしていたのはHR部長でした。学歴も資格もすごいし、英語もできるし(客先の社内公用語は英語)、大変なエリートです。なのに付き合い始めて半年ほど経つと「ん?」ということが増えてきました。
打ち合わせでも、経営者はもちろん若手担当者も理解できていることが、HR部長だけわかっていない。トンチンカンな質問ばかりする。こちらは心の中で「この経歴の人で、ここまで理解力が低いってあるんだろうか?」と不可解な思いでした。
それから1年ほどが過ぎ、ようやく理由がわかりました。実はこのHR部長、職歴も学歴も全部偽造だったんです。
かつての中国では、大手の人材紹介会社の推薦であれば、自社で改めて経歴をチェックすることはほとんどありませんでした。そこで、この人はヘッドハンティング会社の担当者と結託し、履歴書にお化粧(というには重い偽造)を施してもらい、ハイスペック人材として入社していました。
首尾よくHR部長に収まりはしましたが、問題はその後。うっかり自分より優秀な人を採用してしまったら、本当の能力を見透かされてしまうかもしれません。
ボロが出るのを恐れたHR部長は、なんと「管理職以上の採用は、全国展開していて本拠地を**市に置く人材会社を通すものとする」というルールを定めました(もちろん、当時その条件に当てはまるのは結託していた1社のみ)。
ヘッドハンティング会社も心得ていて、それからは経歴を偽造した人材だけを紹介するようになりました。みんな身に覚えがあるから、採用してくれたHR部長のことは誰も裏切らない。時が経つにつれ、管理職クラスは採用条件にまったく満たない人たちに占められるように…。経営管理の利害を考えたら恐ろしい話です。
【Case5】率直と思ったら…人間関係破壊者だった
すごく率直でハキハキした、悪く言うとズケズケ言うタイプの応募者には、自社でも客先でも時々出会ってきました。
失礼とまではいかないものの、非常にハッキリとモノを言う。個人的には嫌いなタイプではないので、やる気と好奇心に満ちていて、学ぶ姿勢が強い人なら採用することがあります。
その中で、入社後に職場の人間関係をめちゃくちゃにしてしまった人がいました。
ひと言で表現するなら「わがまま」。でも面接でいきなりわがままを言うシーンはないため、私も面接では「結構スパッとモノを言う率直な人だな」程度でした。
同じ職場で共に働いていれば、言葉を選ばないといけないシーンはあります。当事者なら許されても、自分の立場では言うべきじゃないこともある。ところが、この人はお構いなしに言いたいことを言うし、それがチームのためではなく自己中心的なことばかりなので、あっという間に職場の雰囲気が最悪に。うんざりして試用期間で打ち切りました。
率直な性格というのは、それで採用を見合わせるような欠点ではありません。ただ面接だと、率直と無神経と自己中を混同してしまうことがあるんですね。
迷った末に入れてみたらすごく活躍してくれた人もいるし、面接で見極めきれなかったからといって全員アウトにするのはもったいない。本当に悩ましいです。
【Case6】丁寧な人…上下で顔を使い分け
対応がすごく丁寧だということで採用したのに、入社してみたら別の顔を持っていた人もいました。
確かに目上の人に対しては礼儀正しいんですが、自分よりも弱いと見ると、後輩はおろか気の弱い先輩にも、面倒な仕事を押し付けたり横暴に振る舞うことが発覚。即クビにしました。
面接官には「目上の人間」として接するので、丁寧な面しか見えなかったんですね。使い分けをするタイプかどうかも、面接や性格分析で見抜くのはなかなか難しいと思います。
DACの対応策
長々と見てきましたが、ことほどさように面接だけで適否は見極められません。では、どうするか。
私たちは最初から「面接では見極めない」と決めています。
もちろん面接でアウトな人はアウトです。面接を突破しても即チームの一員とは考えず、そこから見極めに入ります。採用通知は「これから見極め期間に入りますね」の意味でしかありません。
以下、私たちが見極め期間に何をしているのかを紹介します。
対策1:リファレンスチェックをする
特に経験者を採用する場合には、前の職場に確認します。別にコッソリやる必要はなく、本人に「過去に勤めていた職場のうち、誰・どこに連絡を取れば、あなたの前職での仕事ぶりがわかりますか」と聞いて、実際に連絡してみます。
自分で紹介するくらいですから、関係のよかった職場のはず。なのに連絡すると「あー、あの人ね。やめた方がいいよ」と言われることは結構あります。これは日本人応募者も例外ではないです。
対策2:責任者の悪い予感は重視する
【Case3】のように、面接官が「具体的にどことは言えないんだけど、ちょっとね…」という印象を抱くことがあります。こういう場合、トップや最終責任者の悪い予感はだいたい当たります。
採用するべきかどうかトップが悩んでいたら、「トップの引っかかりは当たります。迷うなら見送ってください」と助言します。理屈では説明できませんが、経験則として私は重視しています。
ただオチがありまして、経営者のいい予感は当てになりません。だから私は「小島さん、すごい人が採れそうだよ」といった話は軽い心配を抱きつつ聞き流しています(こういう時に慎重な助言をしても耳に入らないので、諫言はしません)。
対策3:アルバイト・インターン・実習で入れてみる
採用が前提の場合とそうでない場合がありますが、先にアルバイト・インターン・実習で入れて、いろいろな角度から人となりを見ることもあります。
私たちの会社でも、採用予定者を卒業前にインターンで入れて、数日後に本人から「無理です」と言われたことがあります。これはお互い助かります。入社後だと向こうも我慢しないといけないし、私たちも一定期間は雇用を続ける必要がありますからね。
この場合のポイントは、現場に入れた後に目線を切らないこと。あくまでも仕事ぶりや性格を見極めるために入れるのであって、本当にただのアルバイトとして扱っていては意味がありません。
お客さん扱いせず、自社の理念、要求レベル、チームのルールなどははっきり伝えていく。そうすれば、本人の方で「違うな」と思った時にも申し出てもらえます。
対策4:採用前に会社活動に呼んでみる
臨時雇用が難しいなら、飲み会や食事会などの社内イベントに呼んでみます。海外合宿や社員旅行に連れて行くこともあります。
そうしたおかげで入社前から絆が深まった人もいましたし、「想像と全然違ったので辞めます」という人もいました。会社側から採用を見合わせた人もいます。
任意参加のリラックスした場では、面接では見られない面をのぞかせることが多いです。バーベキューやカラオケなどで、みんなが片付けや準備をしている時、応募者はどう動くのか。先輩たちはさりげなく観察しています。
対策5:原本確認を厳格に
【Case2】の手痛い経験から、原本確認は徹底します。本人がどう言おうと、原本を確認しない限りは最後のハードルはクリアさせない。特別扱いも特例も無し。基本に忠実にやっています。
対策6:試用期間は中間面接
中国では試用期間について国の定めたルールがあります。「これくらいの労働契約を結ぶなら、これくらいの試用期間を設定してもいいですよ」というものです。これはしっかり活用します。
実は、試用期間はほとんどの日系企業で形骸化しています。試用期間中に特段の問題がなければ、ごく当たり前に正社員にしているはずです。
一方、私たちは試用期間を中間面接と位置付けています。「特段の問題がなければ合格」ではなく、「全員が賛成しない限り本採用は見送り」です。
そのため、意図的にいろいろな仕事や先輩に触れさせ、あえて私が参加しない食事会を設定したり、取り繕わなくていい若手中心の場に入れてみたりと、さまざまなシチュエーションをつくります。
180度観察も欠かせません。すぐ上の先輩から上司・経営者に至るまで、全員が観察者になります。試用期間中、担当者たちは週次で様子を共有しています。
こうして吟味するのは仕事の能力・パフォーマンスではなくて、「素の状態でどんな人なのか」。気になる点が出てきたら、確認のためにこういう仕事をまかせてみよう、こういう機会を作ってみよう、と工夫しています。
新人に最も近い若手社員の声も非常に重視します。彼らには、経営者やベテラン社員には見えないことがいろいろ見えていたり聞こえていたりします。日本でもぜひお勧めしたいです。
対策7:最初の契約期間は後期面接
中国のルールでは、試用期間終了後、2回まで有期の労働契約を結べますが、その後は無期限契約に転換しなければなりません。そして、少なくとも1回目の契約期間終了時なら、会社は理由なく不更新とすることができます。
中国の試用期間は通常1か月から6か月。その間に見極めきれない場合には、1回目の労働契約期間を後期面接として使うことをお勧めします(中国の労働契約の期間は一般的に1年〜3年)。
1回目の労働契約期間中に気になる兆候がないか徹底して観察し、合わないと判断すれば会社から更新を見送ります。
対策8:悪い人じゃないんだけど…は見送りサイン
試用期間や労働契約の期限が近づき、更新可否を判断しなければならなくなった時に、「いやー、悪い人じゃないんだけどね」という発言が出たら要注意。これは発言者も気づいていないかもしれない「見送りサイン」です。採用支援先でこの言葉が出たら、「不更新にした方がいい」と助言します。
なぜなら「悪い人じゃないんだけど」の「けど」の後ろには、「仕事ができない/役割を全うできない/チームにフィットしない」などが続くはず。だから私は「悪い人じゃないんだけど」を船から降りてもらうべき本音基準と見ています。こういう人を長く組織に置いておいていいことはありません。
今日のひと言
採用後の出口を用意できるか
面接だけで見極めるのは無理となれば、考えておくべきは「出口」。採用後に適切な人材ではないとわかった時、どうやって船から降りてもらうか。ここを真剣に考えておく必要があります。
「不満はあるけど辞めさせるほどではない」というのは見極めとは言いません。不満があるなら出てもらうべきです。
が、出口のつくり方には工夫が必要。会社・国によって解雇や契約打ち切りの難易度が違うため、中国のやり方がそのまま他国で使えるとは限らないし、もっといい方法が見つかることもあります。
私たちが採用をサポートする場合には、必ず出口まで用意します。出口がなければ見極められないと思っているからです。見極めの結果、アウトな人を残しておくほど、他の社員にとってマイナスでアンフェアなことはありません。出口をしっかりつくっておくことを強くお勧めします。
この記事を書いた人

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。