コラム

日系企業にありがち! 人材採用時の6つの課題【中国駐在サバイバル】

2025年02月08日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

見出し画像

採用は現在の中国においても日本においても経営レベルの重要課題。今回は採用時(面接以外)にありがちな日系企業の問題点を紹介します。採用は人事ではなく経営の課題。経営者にはこの意識が不可欠ですよ!

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
小島のnoteをこちらに転載しています。

───────────────────────

中国で人が採れないのはごく当然

最近、採用の相談が増えました。中国でも日本でも、「いい人が採れない」という話を聞きます。

中国で人が採れないのはごく当たり前です。むしろ採れなくて当然という認識がないとまずいです。

この背景は過去にも紹介したことがあります。

https://www.daocrew.com/column/20240927/

簡単にまとめると、中国の若年層は人口が10年前の7割に落ちている上に、ギグワーカーなどに流れて企業に就職しない若者も増え(私試算でざっと3割は)、労働市場に出る人材の母数が0.7×07で以前の半分ほどになっているという話。

それに日本語学科の卒業生も減っています。語学系の市場は縮小傾向にあり、英語学科ですら減っているんですから、マイナー言語である日本語は言わずもがな。大学の日本語学科は少なくなっています。

現地拠点に「なんだか昔の半分くらいしか採れないな」という肌感覚があれば、それはごく当たり前の事態だと認識してください。

前提① 横並びではどんどん採れなくなる

母数が減っている以上、他社も採れなくなっています。だから、今まで通り「他社と同じようなやり方や条件」を目安にしていると、みんなで採れなくなります。

前提② 適性の見極めがより重要に

私たちが実際に採用を支援した客先や、自社の採用現場で思うのは、書類や面接だけでは適性の見極めがつかない人が増えてきたということです。

もちろん、以前だって書類や面接だけで見極めることはできませんでしたが、実際に入れてからの振れ幅・ギャップが非常に大きくなっています。

面接でもそれ以外でもできるだけ見極めようとはするものの、試用期間と1回目の労働契約期間にフルに使って見極めないとダメな時代になったと痛感しています。

いかに面接での見極めが難しいかはこちらで語っています。プロとして断言します。面接だけでの見極めは無理です。

採用時はもちろん、採用後も時間をかけて観察していくことが必要なのに、日系企業の多くは採用時に課題を抱えています。面接の課題は過去に触れたので、今回はそれ以外の傾向を6つ、整理しました。

日系企業の採用時の課題

課題① 契約期間/試用期間の設定

中国の試用期間は、労働契約期間が3か月以上1年未満の場合は1か月、1年以上の場合は2か月、3年以上または無固定期限(無期限)の場合は6か月、設定することができます。

できるだけ長く試用期間を取ってギリギリまで見極めたい…と考えるのが人の常。初回の労働契約では、契約期間3年、試用期間6か月に設定する会社が多いと思います。

この設定にはもう一つ、法律上の制約という事情があります。2回目の固定期限の労働契約が満了する際、本人が契約更新を希望すれば、基本的に無固定期限の契約を締結しなければなりません(一部に例外あり)。

これは、1回目の固定期限の終了時が、見極めの実質的な最終機会だということを意味します。だから、できるだけ1回目の契約終了までの機会を引き延ばしたいという思惑も働きます。

このような事情は理解できるものの、今の私の感覚では「初回の労働契約期間は長いほどいい」という時代は過ぎたと思います。

例えば、採用した人の適性は入社半年もたてばだいたいわかるよねという会社で、初回契約を3年に設定したとします。すると半年後に「ちょっと違うかな」と思っても、契約終了までまだ2年以上あります。

その間、不協和音を奏でながら無理にチームを運営することに。他のメンバーがだんだん疲弊してストレスを溜め、非常に職場環境が悪くなります。

こうした事態を避けるには、初回の労働契約は、自社で人材の見極めに必要な期間、長すぎもせず短すぎもしない期間で設定するのがベストだと思います。ちなみに、DACでは以前は1年で、今は9か月に設定しています。

契約期間によって設定できる試用期間の長さは変わってきますが、最長でも6か月、1年契約なら2か月です。その間に見極めがつくかというと、難しいと言わざるを得ません。

このため、試用期間をベースに労働契約の期間を考えるよりも、自分たちがどれくらいの期間で見極められるのかということから、1回目の労働契約期間を導き出した方がいいと思います。

この辺りは、少し前までとは成功パターンが(無難なやり方も)変化しています。まだ見直しをかけている会社はあまりないようなので、ぜひ適正な期間を社内で議論してください。

課題② 試用期間に見極めない

試用期間とは、読んで字のごとく、お試しで見極める期間。しかし、ここで見極めずにスーッと本採用に移行してしまう会社が多いです。

試用期間は採用面接の延長戦であり、1回目の契約期間のおまけではありません。面接と試用期間を一体にしてきっちりと見極めるようにし、ノーチェックで本採用しない方がいいと思います。

なお、試用期間といえども無条件で契約解除はできません。「採用条件に合致しなかった」という理由が必要です。

それでも契約解除のハードルは本採用後より格段に低い。仮に不当解雇だと訴えられても、会社への影響は限定的です。

もし会社が敗訴した場合、経済補償金を2倍出すか、職場復帰させるよう命じられます。経済補償金は、労働契約期間が1年なら2倍でも給与2か月分です。会社にとって経済的に痛い話でもないでしょう。2か月余分に雇用を続けた場合より低負担です(雇用を続けると、会社負担の社保類も発生)。

職場復帰なら、1回目の労働契約の期限まで待ち、その時点で会社から理由なく不更新にできます。法定の経済補償金さえ払えばノーリスク。この二段構えで対処可能です。

課題③ 見極めても決断しない

ある程度の見極めができていても決断しない経営者は多いです。

心の奥底で答えは出ている。出ているんですけども、面と向かって言うほどの材料もないし、せっかく採用した人材だし、紹介会社にお金も払ってるし、もう少し待てば変わるかも…などと考えて、いろいろな引っかかりやわだかまりやモヤモヤを抱えながら、結局、雇用を継続してしまう。

これに対して私が言いたいのは「フェイルセーフ」です。飛行機や列車、発電所などで、故障した時に自動的に安全な状態になるように仕掛けておくことですね。飛行機のエンジンが故障したら、そのまま落ちるのではなく、滑空できるような仕組みにしておく。設備が止まってしまった時は、熱暴走しないように自動的に冷却が入る。フェイルセーフの仕組みを採用にも入れた方がいいと思います。

つまり、迷ったら見送る。引っかかる材料に目をつぶる方法を考えるのではなく、経営者が引っかかっているのであれば、他に好材料があったとしても、フェイルセーフの発想で見送る方がいいです。

冒頭に述べたように、人は確実に採りにくくなっていきます。しかし、人手が足りないという問題と、チームに不協和音やマイナスのエネルギーを発する人がいるという問題は、間違いなく後者の方が致命的です。人手不足は局地的な問題ですが、後者は周囲を巻き込み、会社に大きな損失を与えます。

課題④ 募集条件がつまらない

失礼を承知で言わせてもらえば、募集条件のつまらない会社が多い! 募集条件につまるもつまらないもないだろうと思うかもしれませんが、書いてあることは会社の名称・勤務地・ポジション・職務内容・基本給・福利厚生その他諸々に、募集対象は明朗快活・健康・コミュ力が高い人……。これ、つまらなくないですか。

会社がどんな人を求めているのか、全然わからない。熱量が伝わってこなくて、非常に無機質です。

数社分の募集要項を並べてみると、違うのは給与・勤務地・ポジション程度で、形式も内容もほとんど一緒。社名を書き換えればそのまま他社で通用しそう……。区別がつかない以上、求職者は会社のスペックで選ぶしかないです(知名度と給料の額で勝てる会社はいいですが)。

人が採れない時代には、「ウチはこんなことをやっていきたいから、こういうことに関心がある人は来てください!」と尖ったアピールをすべきです。大半の会社が募集の書面には工夫をしていない。ちょっと知恵を出せば差がつきます。

ほとんどお金をかけずに、自社の強みや特色、求める人材、求めない人材までアピールできる。他社との違いを出せば出すほど、初手から合わない人も出てくる分、「この会社は面白いぞ」と思ってくれる人に会える可能性が高まります。ぜひ思考停止を脱却して、自社の異質さを出す工夫をしてほしいと強く思います。

課題⑤ 経営層が採用の法規ルールを理解していない

・労働契約期間ってどう設定するの?
・試用期間の長さは?
・試用期間で契約解除するには?
・1回目の契約満了時に終了するには?
・2回目の契約ってどうすれば?

……といったことが、ボンヤリとしかわかっていない経営層はいます。あるいは人事にまかせきりで、自分は日本的な感覚しか持ち合わせない人も。

そういう人たちに言いたい。サッカーにしても野球にしても、プロスポーツの世界でGMや監督がドラフトや移籍のルールを理解していないことがあるでしょうか。

プロスポーツの経営陣は、いかにしていい選手を取ってくるか、どうやって選手を入れ替えるか、どう見極めるかということに大変な人手と予算、工夫を投下しています。

会社組織も同じです。経営層がルールを理解し、「いかにしてルールをうまく使って、いい人材を採り、見極めるか」を考えなければなりません。現状で採用できているなら理解しなくてもかまいませんが、そうでないなら考えるべきです。

課題⑥ 採用活動を経営者が指揮しない

一連の採用活動をすべて人事部が仕切っている会社。各部署が欲しい人材を出して、人事でまとめ、外部の紹介会社に依頼。結果、履歴書が集まらないと嘆いている経営者は意外と多いと思います。

今、人的資源という言い方をしますね。では、人材ってどこかの部署の資源でしょうか。違いますよね。人材は経営資源。ならば陣頭指揮を取るべきはやはり経営者です。

興味深いことに、私たちに採用の相談に来る経営者に限って、すごくいろいろ工夫しています。「もっと何かあるはずだ」と聞きに来るわけですね。

手を打っていない経営者は、だいたい自分では相談に来ない。人事に「しっかりしろ」「なんで採れないんだ」「紹介会社にちゃんと言っとけ」で終わってしまっているんじゃないかなと思います。

考えてみてください。トップが自ら動いている案件と、部署まかせの案件では、自社の社員も外部のパートナーも当然、熱意・本気度が違います。採れないなら、ぜひ自分で動きましょう。

++

ここまで見てきた6つの課題は、いい人材・自社に合う人材がなかなか採れない会社が最低限押さえておくべきポイントです。これらを押さえれば採れるというものではないけれど、自社の工夫だけですぐにできます。このくらいは変えませんか。

今日のひと言

採れないなら採る処遇か工夫を

いい人材が採れないならどうするか。まず処遇を変えることが考えられます。求職者が目の色を変えて集まってくるような処遇を出せるように、会社が工夫・努力をする。

処遇を変えるのが無理ならば、それ以外の工夫をするしかないと思います。採用を風まかせにして、入ってくる時は入ってくる、入ってこなければずっと入ってこないという状況を放置するのは、経営の怠慢です。採れないなら、経営者が自ら動いて、工夫し、熱意を示し、採るべき人をしっかり採って見極めてください。

2025.02.08 note

https://note.com/daocrew/n/ncb6fd3342a70

この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。