コラム

不正も才覚のうち…結果が出ていればプロセス不問?【中国拠点の現地化】

2025年02月22日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

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海外拠点で「経営の現地化」を進めると、確実にプロセスが不透明化していき、果てはブラックボックスになります。

これに対する考え方は二つ。
結果で縛る。結果で貢献できるならプロセスは問わない。
②結果だけでなくプロセスも重要。多少の手間やコストをかけても透明化を図る。

もっと具体的に言うなら、「安くて品質確保もできるなら、社員が多少ごまかしてもいいじゃないか。会社は損していないんだから」と「社員に不当に金を渡すぐらいなら、外部にそれを払っても不正を抑止したい」の二択です。

これはある意味、究極の選択。経営にとってどちらが合理的な判断なのか、それともどちらも合理的な選択肢なのか、考えてみましょう。

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
小島のnoteをこちらに転載しています。

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ある意味、究極の選択

本題からちょっと逸れますが、不正は国を問わず、だいたい好況期に育ちます。根を張り、だんだんと大きくなり、そして不況期に破裂します。不況時は会社に不正を看過するゆとりがないし、売上が低迷している中だと目立つために発覚しやすくなります。実際、不況期には私たちに寄せられる不正の相談が非常に増えます。

今、中国は不正行為が増えている段階です。不正への対応は、先ほども言った通り究極の二択。どちらがマシか、見ていきます。

なお、ここでいう不正とは「会社の立場や職権を利用して、不正当な手段で私的利益を追求すること・私腹を肥やすこと」を指しています。他にもさまざまな不正がありますが、今回はこの不正を前提とします。

選択肢① 結果重視

中国やインドなど日本の外に目を向けると、そこら中に不正は存在するという現実があります。選択肢の一つ目は「郷に入れば郷に従え」。多少ズルをしている者がいても、会社が結果的に必要なモノを安く手に入れることができるのであれば許容しようという考え方です。

通常ルート・標準的な価格で購入するのではなく、社員が自分の力で値下げを実現し、結果として会社にコスト削減という貢献をしている。それなら、そこで得た利益の一部を抜いていても「お駄賃代わり」。最終的に会社が恩恵を受けているんだからいいや、という発想です。

選択肢② 公正重視

もう一つは、公正を重視する立場です。「ダメなものはダメ」、会社に利をもたらすとしても、私腹を肥やす不正は許容すべきでない。悪事を働く社員個人にカネが流れるくらいなら、社外に払った方がいいという考え方です。実際、ある経営者は「社内で50万元の不正を許すくらいなら、弁護士に100万元払って不正を撲滅する方がマシ」と言っていました。

どちらを選ぶべきか…不正の代償

私の結論

私は過去20年以上にわたり、さまざまな不正がはびこる組織を見てきました。そうした組織を立て直してきた経験から得た結論は、もしどちらかを選ぶなら、不正に目をつぶって利益を得るより、外部に費用を払ってすっきりした社内にする方を選びます。

なぜなら、不正(本人の才覚)で会社に利益をもたらすやり方には「見えないコスト」と「見えない代償」があるからです。

不正の代償①「良品廉価」の維持は不可能

第一に、「良品廉価」は続かない。従業員の個人的な才覚で業者に安く提供させるやり方は、構造的に成り立たず、長期的に維持できません。

不正社員が利益を取っている以上、基本的に業者は泣かされている立場。安く提供し続けた上にキックバック分を捻出するという厳しい状況に追い込まれています。購買ボリュームこそ保証されているものの、過酷な条件の取引が続けば、業者もどこかで帳尻を合わせようとします。

わかりやすいのは品質。粗悪な材料に差し替えたり、本来なら弾かなければならないレベルの製品を混ぜたりする。これは品質問題に直結します。客先で品質問題が発生してしまったら、会社が致命的なダメージを負う可能性もあります。

施工不良もそうです。安く工事を請け負わせた結果、材料や施工が粗悪・粗雑になり、壁が剥落したとか、漏水で天井の一部が落ちたとかで、製造ラインが止まったケースもありました。

このような問題が起きると、コスト削減による利益が一気に吹き飛び、さらには極めて高いペナルティを払う羽目にもなりかねません。最悪の場合、企業の存続に関わるような重大な問題となることも……。これでは何のためにその業者を使っていたのかわかりません。

さらに問題なのは、「せっかくリスク/代償を負って(不正の)枠組みを作ったから」と、社員も業者も第三者の参入を極端に嫌い、健全な競争を阻害する点です。業者は当然として、社員も自分の言うことを聞かない業者が入ってきては困りますから、徹底的に排除しようとするんですね。

その結果、健全な競争が失われ、必ずどこかがおかしくなっていきます。知らないうちにコストが高くなっていた、従来品は安価でも新規に供給を受け始めた製品は極めて不当な価格設定になっていた、などなど。不正スキームで得た良品廉価は続かないと考えた方がいいです。

不正の代償② 不公平感が蔓延する

社内に不公平感が蔓延することも問題です。これはコスト換算するのが非常に難しいですが、コスト以上に重要な問題だと思います。

不正を働いている人たちがいると、人事制度が機能しなくなります。「頑張れば昇格できるぞ」「評価が上がるぞ」「賞与に反映されるぞ」といくら言ったところで、隣の部署で不正を行っている人たちが手にしている金額を知ってしまえば、バカバカしくなるのが普通でしょう。

彼らが懐に入れている金額が、数千元や数万元で済むことはありません。私が扱ってきた案件でも100万元・1,000万元単位の話は珍しくない。単価は小さくても、年間の取引量を掛け合わせると、相当な額に上ります。

それに対して、評価制度や業績に連動した人事制度で、年間5万元・10万元以上の収入増が見込めるかというと、通常はそうはいかないですよね。

会社が不正行為にメスを入れないとわかると、みんなが手っ取り早く利益を得ようとするようになります。上司の顔色を見ながら一生懸命に働かなくても、自分で不正の枠組みを作った方が効率的。会社の「頑張れば正当に報われる」というメッセージは虚しく響きます。

そして、優秀な人材、特に不正を潔しとしない人材から、そういう状況に見切りをつけて流出していきます。これも会社にとっては中長期的に大きなダメージです。

不正の代償③ 金が権力を生む

不正を働く社員が、おとなしく一人でコソコソやっていればまだマシです(もちろん不正であることには変わりはありませんが)。

しかし普通は、自分がやりやすいように周りの人々を抱き込もうとします。意のままに動かせる人材だけで自分の部下を揃えたり、工会や各部署に送り込んだりして、立場を強化していきます。

周囲を巻き込むことで、より利益を大きくし、他の人にもうまい汁を吸わせて、発覚のリスクを避ける。こうして一社員から副総経理、総経理まで上り詰めた例を、私は10人近く知っています(その後始末もしてきました)。人事権を掌握すると、周りの見る目も変わり、上へ上へと持ち上げられて本当に権力を握っていくことがあります。

それから、こういう人たちは、いざ会社にバレた時に自分を切れないようにする準備を怠りません。これまたよくある例ですけども、政府筋、工会関係などに接点を作り、何かあった時に便宜を図ってもらうべく、いろんな活動をしています。

不正の代償④ 管理コストと手間が膨らむ

会社の管理コストと手間が膨らむ点も無視できません。

不正行為が良品廉価を維持できるような程度で収まることはないと言っていいでしょう。そうなれば、そもそもの前提である「会社のコストを抑えられるなら(不正は許容できる)」が成り立たなくなります。業者はキックバックを出しても十分に潤うような不当に高い単価設定をすることになり、価格設定が変えられない場合は品質や数量でごまかすことを考えます。

また、不正を行っている人は、経営者に評価されて現在の立場を得たのではなく、自分の力で会社から利益を分取ってきたと自負しています。そのため、基本的なところで経営者に従わないフシが見られ、業者も経営者ではなく担当者を見て仕事をしています。

こういう社員を管理するのは非常に苦労します。彼らはしばしば人事権にまで口を出し、「これには反対です」「納得できません」「他の部署も反対しています」などと数の力で圧力をかけてくる。経営者としてもなかなかゴリ押しは難しく、会社の統制が効かなくなる原因となります。

不正スキームで得られる利益を会社が維持しようとすれば、膨大な手間と管理コストがかかることは避けられません(となると、大局的に見ればペイしていないことになります)。

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このように、「内部で多少の不正があってもコスト削減につながればいい」という考え方は、短期的には成り立っても、長期的には持続しません。うまくいったように見えても、リスクや問題が積み重なり、最終的には会社にとって大きな負担となります。

私の考えでは、多少高くても日本側や経営者がコントロールできる業者やサービスを利用するか、多少のコストをかけても外部の力を使って不正ができない環境を整える方が、最終的には得策だと思います。

外部なら、見える費用だけで完結するのでシンプルで明確。管理を委託すれば余計な手間もかからないし、水面下に潜んでいる問題が悪化するのではないかという心配もなくなります。これは私の経営者としての見立てであり、相談に来た経営者にも同様のアドバイスをしています。

今日のひと言

不正を活かしたコスト抑制は幻想

不正を利用したコスト抑制は、一時的にはうまくいったように見えるかもしれませんが、中長期的に見ると(意外と短期でも)、多くの面で高くつくことになります。「不正も才覚のうち」は幻想に過ぎないと私は考えています。

この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。