コラム
中国拠点で驚いた「日本よりムラ社会」の実態
海外法人に赴任してきた経営層の方に、「いやぁ現地に来て驚いたよ。ここは日本よりムラ社会だねぇ」と言われることがあります。これを聞くと私は複雑な思いに……。中国拠点の実態から、真相を探ります。
小島のnoteをこちらに転載しています。
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日本よりムラ社会じゃねーか!
赴任してみてびっくり
中国に赴任している、あるいは過去にしていた人から、「中国拠点は日本よりもムラ社会だった」という声を時々聞きます。赴任してみてびっくりした、と。
ここで言っているムラ社会というのは、古参・ベテランが幅を利かせていることであり、今までの習慣を守旧・踏襲していることであり、前例がないことをやろうとする人は村八分になることです。特に外から来た人が新しいことをしようとすると、ことごとく排除されてしまいます。
同調圧力が強く、「今までと同じ」「みんなと同じ」という枠からはみ出る動きには強く制限する力が働きます。
よそ者も排除されます。中国拠点では日本人は全員よそ者ですし、外から来て新しいことをやったり言ったりする人は受け入れてもらえません。
変更しても特に影響がないようなことでも、外のやり方はとりあえず拒絶。ウチはウチで押し通そうとします。
総経理も動かせない
この状況は、総経理や董事長でさえ簡単には変えられません。動かそうとすれば表面上は逆らいませんが、半年〜1年経って気づくと何も変わっていない。
ムラ社会を積極的に維持しようとする人、消極的に流される人の違いこそあれ、結果的には過去のやり方を踏襲し、古株の発言が通ります。「ここを変えていこう」「チャレンジしよう」という方向には、まず進んでいきません。
こういう現実に直面した赴任者に、「中国って、もっとわがままで収拾がつかないと思ってたけど、全然印象と違った!」と言われることもあります。
ちゃうんです!
日本企業の中国拠点は中国社会の縮図ではない
しかし!実は、赴任者に見えている部分は中国社会の縮図ではありません。実際の中国社会はどんな感じなのか、日本との違いをいくつか挙げてみます。
まずは、新しいことを始めるときの姿勢です。日本は「熟慮してから」。他国から「日本人は持ち帰って検討しすぎ」と揶揄されるくらい、PDCAサイクルで言えばとにかくPPPPPP。DCAにたどり着かないまま消えていくこともあります。
逆に中国は「試試吧」、とりあえずやってみようという姿勢が顕著です。PDCAなら、PがなくてDCADCADCA…で回していく(日本人的には「もうちょっと考えてからやった方がいいんじゃないかな」と言いたくなることも)。新しいことに慎重で、よく考えてから取り組むという文化は、本来の中国にはないものです。
それから、日本では「カネの問題じゃない、スジを通せ」と言われることがありますが、中国は「スジよりカネ」。会社には会社のルールもこれまでの経緯もあるんだから、それではスジが通らない…みたいなことは気にせず、カネになるならやろうとするのが本来の中国の姿です。
日本的な職人気質も中国にはありません。コツコツ作り続け、少しずつ良いものを追求する日本人は、急にガラッとやり方を変えたりはせず、受け継いでいくことそのものを大事にします。一方、中国人は典型的な商人気質。「今売れるモノが良いモノ」、質を追求するより、今お客さんが欲しいモノを用意して売ろうとします。
本来の中国社会の特徴を考えると、日本的なムラ社会からはむしろ逆に近い姿が見えてきます。昨今のDeepSeek、BYD、Temu、SHEINといったビジネスを考えても、ごく短期間で世界を席巻するのが中国流。うまくいっている中国企業のやり方を見れば、それははっきりしています。
じゃ、なんで?
中国拠点がムラ社会と化したワケ
では、なぜ日本企業の中国拠点はムラ社会なのか。率直に言えば、「日本側と日本人がそうした」というのが現実です。
私は中国と20年以上付き合ってきて、中国の人たちは良くも悪くも非常に合理的だと思います。根底が浪花節で「カネよりスジ」な日本人と違って、中国人は合理性やビジネス的な意味をシビアにとらえるところがあります。
そんな合理的な人たちですから、日本企業に入ってそのやり方を見ているうちに、「待てよ、そんなに頑張らなくてもいいんじゃないか」と思うようになる。
そつなく仕事をしていれば、黙っていても年功で給料は上がり、そのうち役職がつき、ポジションが空けば部長まではいける。だったら、今からあくせくするより、昇格が止まるような低評価を受けない程度に働けばいいや、という「合理的な」結論に至ります。
不正についても同じです。厳しいチェックが入るわけでもなく、甘い汁を吸っているヤツもいる。なんだかんだ言いながらも会社としては回っていて、ズルをしている人たちの評価が落ちる様子もない。となれば、「それくらいのことはやってもいいのね」と学びます。
また、日本企業では現地経営者(駐在員)が頻繁に交代します。言葉ができず頻繁に変わるトップでは、組織の細部、業務の隅々まで理解するのは困難。そこで合理的な人たちはどう考えるか。「業務は自分のやりたいようにやろうっと。ボスに手を突っ込まれて、やり方がおかしいとか、自分の言う通りにやれとか言われることはなさそうだ」。経営者の業務への無関心・無関与を見切られています。
それから、アメリカや中国の企業は、トップが変わったら幹部も総とっかえする勢いで人事権を行使してみせますが、日本企業にあまりそういう人はいません。「神輿は軽いほどいい」と言われ、上が変わっても下には変化が及ばないのが日本。「なるほど、トップが変わっても人事権を行使して組織をシャッフルするようなことはないんだな」と学習します。
出来上がったバランスは崩せない
こうして学習した結果、それぞれの派閥で、お互いの領分を侵さず、口も出さないという暗黙の協定ができ、棲み分けが確立されていきます。
進出から10年も経てば、多くの中国拠点ではすでに「居心地のいい」状態が出来上がっているはず。おそらく日本本社や日本人赴任者には見えていないものもたくさん埋まっているでしょう。とっくに最適化が済んでいるのです。
ここに新任のトップが入っていって改革の旗を振っても、そりゃ誰も動きません。あちこちにいろんなしがらみがある中で、やっと棲み分けを確立して利益を吸い上げているのに、誰かがバランスを崩すようなことをやり出すと他が迷惑します。
全社的な目線から建設的に議論したり、ゼロベースで仕事を見直したりするなんてもってのほか。改革の号令に従って自分にプラスがあるか考えたら、たいていの場合、答えはノーです。
こうした背景があって、中国拠点はムラ社会になっています。こんな状態になったのは、それまで長年かけて、その方がトクだと他ならぬ日本人が学習づけしてきた結果だと思います。
ムラ社会な組織は破壊と再生を
そんなわけで、赴任者に「中国拠点はムラ社会だ」と言われると、私は内心、「ムラ社会だと感じるような組織は、破壊して再生しないと使い物にならないですよ」と思っています(初対面の人にいきなりそこまでは言いませんが)。
赴任先がムラ社会でも、呆れている暇はありません。中国の人々が持つ柔軟性や変化のスピード感を考えれば、駐在任期のうちに組織のあり方を変えることは十分に可能です。
一旦ルールをリセットして、新しいルールを徹底して、それに基づいて動ける人たちを適材適所・信賞必罰で組み替える。現地社員の「当たり前」の基準を変えていくことは、1〜2年あれば十分にできます。
定着するまでにはさすがに4〜5年は欲しいので、任期3年なら、組織固めは後任に託し、改革が後戻りしないように目を光らせておく必要があります。それが難しいなら、私たちDACを改革継承のチームに組み込んでおいてください。
今日のひと言
ムラ社会だと感じたら最大級の危機感を
自社の組織が「ムラ社会」だと感じたら、最大級の危機的状況にあるという警戒感・懸念・危機感を持ってください。その状況で1年も2年も過ごしてしまうと、改革するための機会がどんどん限られていきます。ムラ社会だと思ったら、すぐ改革に手を付けるべき。私はそう考えています。
この記事を書いた人

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。