コラム

日系企業に迫る深刻な問題…第一世代の大量定年にどう備えるか【中国駐在】

2025年04月18日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

中国拠点で2005年に30歳で採用した人材が今年50歳。日系企業の「第一世代」社員たちが、そろそろ定年に近づいてきました。

第一世代は良くも悪くも特別なメンバー。会社の成り立ちから日本側・日本人トップと一緒にやってきたため、ナチュラルに会社のすべてを理解しています。

しかし、第二世代以降は違います。第一世代が抱えている仕事はわからない。第一世代から教わっていないことは知らない。ベテラン社員が抜けた後の会社をどうするか、準備はできていますか。

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
小島のnoteをこちらに転載しています。

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中国拠点の大量定年にまつわる懸念

状況により異なる悩み

中国の定年退職年齢は法律で決まっていて、ざっくり言うと女性の一般職が50歳、女性の管理職が55歳、男性が60歳です(注:2025年1月より法定退職年齢の段階的な引き上げが開始されました。ただ、かなり緩やかな移行措置があるため、本稿では説明を割愛します)。

2000年代初頭に進出した日系企業では、特に女性がまとまって定年を迎え始めているところだと思います。

第一世代の定年については、会社によって懸念点が異なります。一つは「引退が心配」。この世代がまだまだ活躍していて、設立から会社のすべてをずっと見てきた幹部たちが抜けることを懸念するケースです。

もう一つは「引退が待てない」。第一世代が組織で機能していないので(または、いろいろ負の面も大きくなってきたので)、できれば引退を待たずに早く入れ替えたいんだけどな……というケースです。

同じ会社でも部署・管理職など個別の違いも。この人は抜けられるとちょっと心配だが、この人には早く引退してほしいということ、日本でもありますよね。

引退が心配なケース

引退が心配な会社が何に悩んでいるかというと、まずは後継者が準備できないことです。とりわけ中堅社員がごっそり抜けていて幹部と若手の間が20年くらい空いている会社だと、後継者にふさわしい人がいない。50代のベテランから30歳手前の人に引継ぐとなれば、仕事経験そのものに大きな差があり、相当に困難です。

後継候補がいる会社でも、実際に業務が継承できるのかという心配があります。中国の場合、文化的な背景もあり、なかなか普段から部下を指導・育成してきていません。ベテラン社員に後任を育てる意欲があったとしても、果たして時間的に間に合うか。第一世代が現役で頑張っていれば、本格的に抜けるまで後継者に一人立ちする機会は与えにくいです。

業務以外に、意識の継承も心配です。第一世代は、まだ現地社員が数人しかいなくて、業務も量産化も始まっていない、先行きがどうなるかもわからない時代を経験しています。そんな状況から、日本人駐在員と一丸となって、昼も夜もなく、役割分担もなく、「みんなで作り上げるぞ」とやっていくのが立ち上げ期。

この時期を共有してきた人たちは、先達が会社に込めた思い、どういう歴史的変遷を経て今に至っているのか、いちいち教育しなくても、みんなが当たり前に知っています。そんな第一世代が抜けてしまうと、この意識が継承できなくなります。

引退が待てないケース

一方、「定年まで待てない。早く引退してほしい」と願う会社が抱えている懸念は、第一世代が引退してくれないと後継者を登用できないことです。

第一世代がポストを譲り、次の世代を登用できたとしても、定年まで第一世代をどこに置くか。その置き所も頭の痛い問題です。

この二つをクリアした後にも引継ぎの問題が待っています。後継・後継候補にうまく業務を渡せるのか、社内に残る第一世代がいろいろ干渉してやりにくいのではないか、どれも心配です。

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          大量定年にまつわる懸念点のまとめ

すべての課題を整理すると、上の図になります。

適格者がいない場合には、まず後継準備。候補が確定した後は登用タイミングの問題と現任者の置き所の問題がセットで発生します。それをクリアすると、業務継承の問題。その次に、意識継承の問題と、現任者を残す場合には業務干渉のリスクがやってきます。

これを前提に、問題別に備え方を考えてみます。

第一世代引退への備え方

後継準備・後継登用

後継者問題に対するアプローチは二つ。一つは、現任者自身に育成させ、誰がいいかを考えさせる方法。もう一つは、準備ができているかどうかはともかく、とりあえず登用してしまうというやり方です。

現任者を後継育成・候補選びに関与させる場合、本人に育成の適性があるかどうかがポイントです。育成は適性がない人たちにやらせると絶対にうまくいきません。会社の観点で自分の役割を理解できるか、実行できるだけの力量があるか、しっかり見極めてください。

育成に参画してもらうなら、上から命令するより、依頼・相談というアプローチがおすすめです。現任者の面子を立てながら具体的にやってほしいことを提示していきます。

現任者にやる気・適性がない場合は、強制してもしょうがないので、二つ目のアプローチ、「とりあえず登用」に切り替えます。

よく言われるように、人は「育てる」より「育つ」器が人を育てるということも実際にあります。今は危なっかしく思えても、いざ登用してみれば大体の不安は解消するものです。

登用した後で、本当に適性がなく難しいとなれば、その時に次を考えても遅くありません。登用は、しっかり準備ができるまで待つより、準備不足でもあえて踏み切るという発想でやってしまいます。社内に前任者もいますし、経営者が意識的にフォローすることもできます。

置き位置

次に、引退した第一世代の置き位置をどうするかという問題です。できるだけスムーズに世代交代を図るためのポイントは3つあります。

【①役職任期制/役職定年制】
これは日本でも用いられています。後継者を育てるには、役職に就ける必要があるため、現任者には降りてもらわないといけません。

ところが「解任」や「免職」となると、それぞれと話し込んで、本人の理解を得る必要があります(絶対ではないものの、スムーズな組織運営上は必要でしょう)。役職から退くことを拒否したり交換条件を出してきたりしたら、とても面倒です。

その点、役職任期制や役職定年制はおすすめです。任期満了/終了という形にできて、「解任」「免職」という厄介な手順が不要。法的にも比較的安全に交代を進められます。特に役職任期制は、ポストを既得権益にしないためにも有効です(私は任期制の伝道者を自認していますので、関心のある方はお声がけください)。

【②斜め上に置き、ラインからは退いてもらう】
役職から降りてもらう際の置き所の工夫です。単に役職を外して「ただの人」にしてしまうと、利益も面子も損なうため本人としては気持ちの調整が難しい。後継者たちも元上司が「ただの人」として組織にいると、気を遣うし、やりにくい。

そこで「斜め上」のポジションを用意します。上でも下でも横でもなく、斜め上。
斜め上とは、組織のラインからは外れるけれど、組織図上はちょっと上の立場で、処遇も相応に維持する…という意味です。

これには二つの意図があります。一つは後任者のやりにくさや後継者への影響力を排するため。既存の組織から外れてもらう必要はあるものの、外し方を間違えると、実質的に院政を敷いてしまう可能性がある(後継者が忖度してそういう形になることも)。だから、役職を解くのではなく、ちょっと上っぽい別の仕事を与えて既存の組織からは離す。

もう一つは引退者の面子と利益を一定程度保つため。単に役職から降ろすと、顔は立たないし処遇は減る。不満分子と化す人や、自分の存在価値を認めさせようと後継者の組織運営の足を引っ張る人も出現しかねません。斜め上のポジションと相応の処遇(相応の処遇については③も参照)を用意することで、引退者が組織に負の影響を及ぼすことを避けます。

こういった狙いを踏まえると、斜め上のポジションでは、会社全体を見据えた大きな課題、例えば政府との関係作り、政府や業界の情報収集、業務の標準化、全社的な人材育成などについて、経営者と一緒に取り組んでもらうのがよいと思います。

【③置き位置と処遇の問題は別】
気をつけなければいけないポイントです。日本でもそうですが、役職定年というと処遇もセットで削ってしまうことが多いです。

でも、処遇と定年って本当にセットなんでしょうか。そこにあるのは「役職者でもないのに同じ処遇ではおかしい」といった「べき論」の問題や、「削れるコストだからこの機会に削ってしまおう」といった別の思惑ではありませんか。

定年退職の準備段階で組織のラインから退いてもらうことと、コスト削減は、必ずリンクさせなければならないものではありません(セットで考えたい会社があるのは否定しませんが)。私はむしろ分けるべきだと思っていますし、皆さんにも分けることをおすすめします。

現任者にラインから退いてもらうのは、できる限りスムーズに後継者に機会を与え、育成・継承したいという会社側の都合ですよね。なのに面子も利益も全部奪った上で「どけ」という扱いでは、誰だって面白くないでしょう。

協力する気は失せ、経営者に対する信頼も失います。後進を育てるどころか「自分は外されたし、後は勝手にすれば」と投げやりになるかもしれない。さらには自分の存在価値を再認識させるため、後継体制の混乱を引き起こすようなことも…。

コスト削減効果とこういう組織的リスクを天秤にかけたら、まったく割に合わないんじゃないかと。

要は、定年までの処遇を無駄な経費と見るか、業務継承のための投資と見るかです。継承を最優先に考えるのであれば、定年とコストの問題はまとめて解決しようとしない方がいいと思います。

業務継承

業務の継承に関しては、経営者が責任を持ってフォローすることです。後継者を登用し、前任者の置き位置も定まったから「後は当事者同士で」は最悪。よちよち歩きで登用したら、当然さまざまな問題が出てきます。いきなり後継者に自立を求めるのは酷というものです。

前任者に対しては、北風より太陽で接します。「なぜ後継者にやらせないんだ」と強く当たって仕事を渡させようとしても、意固地になるのがオチ。それより「そろそろ手を離せそうだね」「もう次の世代にまかせて自分はラクをしてよ」と、気持ちに寄り添った対応をします。「後継育成はあなたの集大成。仕事人として最もレベルの高い業務だから、頼むよ」と動機づけするのもいい方法です。

最終的には、継承できなかったらできなかったでいい、と腹をくくることも大事です。定年退職だけじゃなく、病気や怪我、家庭の事情などで誰かが急に離職したら、どういう事情であれゼロから何とかしなければいけない。そう思えば、業務引継ぎにそんなに目くじら立てなくてもいいじゃないですか。習うより慣れろ、失敗しながら覚えるでしょ、くらいに構えておきましょう。

業務干渉

ポストから身を引いた人たちが、「自分の目の黒いうちは」と、よく言うと世話を焼く、悪く言うと自分の存在感を誇示しようとすることがあります。

そうなると後継者はやりにくかったり、依存してしまったりして、後継体制の確立がどんどん遅れてしまいます。干渉を避けるために、前任者が口出しをしていないか、現場にちょくちょく見に来ていないか、これも経営者が責任を持ってフォローしてください。

私がよく使う手は、物理的に防壁を立ててしまうこと。同じ部署の同じ島で日々顔を突き合わせていると、どうしてもコミュニケーションが発生します。そこで、一線を退いた人たちには別任務を与えて別の部屋に移します。

先述の「斜め上」作戦です。あえて経営者と同じ部屋にして、業務の重要性を演出してもいいかもしれません。

これなら第一世代の面子も立つし、様子が目に入らないから口出しもしないし、後継者が変に気を回すこともなくなります。このように、本人の意思に依存しない対策を打つことがポイントです。

意識継承

最も難しいのが第一世代がつないできた意識を継承していくことですが、ちょっと立ち止まってみてください。第一世代にも功罪はあります。意識にも継承したいものとそうでないものがあるんじゃないでしょうか。

「会社のために」という強い思いはぜひ次の世代にも受け継いで欲しいけれど、変な馴れ合いやベテラン気取りは別に継承してもらわなくて結構。そう考えると、もし結果的に全然継承できなくても、それはそれでプラマイゼロととらえることもできます。

また、第一世代に頼らず、経営者が直接、次世代を薫陶していくという姿勢も必要です。会社のビジョン、事業への想い、グループ全体の目標などを語るのは、経営者が最も適任のはず。言葉の問題もあると思いますが、肝心なところは経営者が直に伝えていくんだという姿勢を示すべきです。

意識の継承には、後継者を本社とつなぐという方法もあります。立ち上げ期には本社から入れ替わり立ち替わり支援が来ることが多いため、第一世代は何もしなくても本社とのつながりを得ることができていました。ところが、軌道に乗った後は、拠点トップ以外が本社から来た人と接触する機会は減っていきます。

そうすると、第二世代以降は前の世代が自然に獲得したつながりを持っていません。そこを補うためには、後継候補を日本に行かせたり、日本から支援者が来た時に交流できる場を作る必要があります。現地駐在員・現地法人だけにとどまらず、日本を含めたグループ全体との接点を増やす仕掛けを用意することで、意識の継承を促進できます。

意識や考え方の継承は、第一世代の定年がカウントダウンに入ってからではどうにもなりません。これについては定年問題に関係なく、日頃から経営者が次世代の涵養・育成に手間と情熱を注ぐ必要があると思います。

今日のひと言

定年まで5年を切ったら着手!

第一世代の定年まで5年を切ったら、準備に着手する必要があります。1、2年前になってあたふたするのは経営の怠慢であり、職責失当です。個々の離職のタイミングは測れませんが、定年退職は社員の年齢から確実に計算できます。あと何年でどの人が定年になるかは確定した未来。経営に計画性さえあれば準備が可能です。5年を切ったら、今回の内容を参考に備えを始めてくださいね!

2025.04.18 note

この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。