コラム
時代変化に適応する駐在員…リーダー術 孫子勒兵3
新型コロナの問題で、前回のコラム以降、二つの大きな節目がありました。一つは日本で緊急事態宣言が全面解除されたこと。街や週末の行楽地の様子を見ていると、いままでの反動もあってか、すっかり賑わいが戻っています。止まっていた経済活動や生活が6月からどんどん再開されそうです。
もう一つは中国で幼稚園や小学低学年の登校再開が決まったこと。私はずっと「幼稚園が再開されるか」を本当の安全指標だと思って注目してきましたので、これで本当に安全宣言が出たと理解しています(日本でも、娘の保育園が6月から再開します。親としては打ち上げをやりたい節目です♪)。
これで6月以降、ビジネスの往来再開が期待できる状況になってきました。現地の最前線に踏みとどまり続けた皆さん、後続赴任者が来られず少人数で奮闘し続けた皆さん、お疲れさまでした。あと少しで状況は改善すると思います。もうひと頑張りです。
さて、孫武の話。呉王から後宮の女性たちに軍事訓練をつけよと言われ、広場に180人の女性を集めた。何度も指示動作と規律を伝え、鼓を打って指示を始めたが、女性たちも国王の意趣を知ってか、面白がるばかりで訓練にならない。孫武は指示を中断して全体を集め「命令が不明確で徹底せざるは、将の罪なり」と言い、自らの責任だと告げた。再び動作・規律を何度も確認し、隊を構えさせて鼓を打った。今度も女性たちは嬉々として大真面目な孫武の「前」「後」といった指示を眺め、大きな笑い声をあげるばかりだった。
孫武はまた指示を止め、全体を集めた。「命令が不明確で徹底せざるは将の罪だが、命令が既に明らかながら従わないのは士(隊長)の罪なり」と告げ、二人の寵姫を斬罪に処すよう指示を下した。
台上で見世物を眺めるような気分でいた呉王・闔閭は驚き慌てた。まさか自分の寵姫が処刑されるなどという話になるとは夢にも思っていなかった。急いで人を遣わし孫武に告げた。「先生の用兵の凄さはよく分かった。この二人がいなくては余は食事も喉を通らない。処刑は勘弁してくれ」。
孫武は答えた。「臣はすでに君命を受け、将として軍にあります。君命と言えど、お受けすることはできません」。そして二人を斬罪に処し、新たな隊長を選ぶよう178人に告げた。
改めて、隊を構えさせ鼓を打って指示を出した。女性たちは粛然として左右前後に動き、規律と命令に従った。誰も声を発する者はなかった。訓練の後、孫武は人を遣わして闔閭に復命した。「本隊伍はすでに訓練が整いました。降りてきてご覧ください。いまの彼らは王のどのような命にも従います。水火の中にも赴くでしょう」。
一罰百戒を使えずに中国で管理はできない
闔閭は腹を立てたものの、伍子胥から諭され、自らも考えを改め、孫武を重用して春秋五覇に数えられるほど国勢を高めたと言われています。一方、あまりにも有名なこの故事は、孫子の兵法に記された内容とは異質で、後世の手による贋作ではないかと主張する学者もいます。
真贋は分からないものの、重要なのは、この「一罰百戒」が中国で組織をまとめる者にとって極めて重要な考え方であり、リーダー術だということです。私自身が手がけてきた現地の問題においても、一罰百戒は必要不可欠でした。これを知らずに中国で組織管理はできないと断言できます。
●駐在員が求められる役割を発揮するために必要なこと
①脱落しない
②バカにされない
③親近感を持たれる
④信頼・尊敬される
⑤後任者にしっかりつなぐ
●相互信頼・尊敬のために
□リーダーの実力を示す
□現場に寄り添う
2020.06 Jin誌
この記事を書いた人
多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。