コラム
これから中国駐在員になる若い人へ
私ははじめて中国に渡る際、ものすごく不安でした。渡って一年はやっぱり大変でした(笑)ですので少しでも不安感やストレスを緩和できたらという思いで、毎年エールを送っています。今回は、拠点トップではない立場で中国に赴任する若い人に向けてお送りします。
記事の末尾に動画リンクがあります。
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赴任1年目の意外なダメージ
上司で病む
言葉の問題や生活環境の違い、現地組織の部下たちとの関わり、初めての仕事領域……。こういうことに不安を感じるのは当然です。
今回は、事前にあまり想定していない(でも現地に行くと直面しがちな)ダメージに焦点を当てます。
一つ目は上司です。海外の現地法人は普通、日本よりもはるかに日本人の数が少ないはずです。日本だったら大きな組織なら何万人、小さな会社でも何百人、何十人。そうすると社内に逃げ道がいっぱいあります。他の部署の先輩や後輩、元上司、上司の上司、いろいろな人たちがいる。特定の上司と自分だけがずっとつきっきりということはあまりありません。
ところが、現地法人の場合、日本人は少ないと1人、それから2〜3人、せいぜい5人未満の会社が多いと思います。かなり大きな組織になっても10人前後です。そうすると、やはり上司との関係が濃くなります。
小さい組織ですから、何かあればすぐに声をかけられます。また、声がかかる対象が自分以外にいないことも多いです。その結果「上司で病む」人、実は結構います。上司の立場の人も気をつけて読んでいただきたいと思います。
上司のこんな行動に病む
上司の何に病むかといえば、まずパワハラです。日本だったらクッションになってくれる人がいたり、避難する場所があったりしますが、海外では逃げ場がない。私が見た中でも、会社に近づくと体の震えや冷や汗が止まらない状態になってしまった駐在員がいました。完全にパワハラが原因です。
それから、上司の愚痴の受け皿にさせられることがあります。現地トップの上司には、日本側、客先、現地社内などからいろいろなプレッシャーがかかっています。彼らも不満がたまっている。だからといって中国人部下や日本側を相手に毒を吐くわけにもいかない。となると、若い日本人駐在員は格好のターゲットです。上司の受け皿として毒を浴びているのに、若手の方は吐き出す場所がない。これはストレスです。
もう一つは酒のお供です。食事やビール1杯で1時間ちょっと、ならまだマシで、毎晩遅くまで引っ張り回している上司はいます。現在の日本だったら即アウトですが、現地で止める人はいません。上司が単身赴任だと状況はさらに悪化します。私も実際に何人も見てきました。相当なダメージです。
駐在の話ではありませんが、昔は日本の会社でも、上司が意図的に部下をつぶすことはあったと聞きます。ロックオンした部下を毎日朝から呼びつけて、自分の机の前に立たせ、何時間も説教する。これが続くと、相手は自分から辞めるか、メンタルをやられて離脱していくそうです。
私がこの話を聞いたのは15年以上前ですが、中国の日本企業では未だに残っているところもあるとか。これも想定しておいたほうがいいでしょう。
日本側に病む
意外にダメージを与えてくるのは日本側です。本来なら支援側であって、何かあったときに頼れる避難所であってほしいのですが、残念ながら、駐在員が日本側の態度にえぐられてしまうことはあります。
その一つ目は、距離に起因する無関心です。昔から「愛情の反対は憎しみではなく無関心」といいます。自分が最前線で会社のために奮闘しているのに、日本から関心を持ってもらえないとなると、どんどん心がえぐられていきます。
それから、日本側が現地の事情に全然配慮せず、無遠慮に「これやっておいて」「これお願いします」とあれこれ投げてくることです。駐在員にしてみれば「いや、ちょっと待って!こっちはカツカツの人数で回してるのよ。日本の部署にも人はいるでしょう」と言いたくなります。
しかも、いくつもの部署から気安く「現地で取りまとめてください」「申し訳ないけど来週中に」と言われたらどうでしょう。非常に大きなストレスがかかります。また、実際に労働時間が長くなってフィジカルにダメージを受けます。
最後は無神経です。海外、特に中国は楽園ではありません。国によっては駐在ライフをエンジョイできるところもあるようですが、中国はお世辞にもそんな雰囲気はない。かなりシビアな仕事環境だと思います。
日頃そんな中で奮闘しているのに、出張者が来るから仕方なくいいレストランや女性のいる店に連れて行って接待すると「いいな〜、お前らは毎日こんなところで楽しめて」なんて言われる。「は?毎日来てると思ってんの?じゃ代われよ」と言いたくなります(もちろん言えないわけですが)。
親元を離れて下宿した子供を扱うように
理解者であるべき日本側からの「無関心・無遠慮・無神経」が重なっていくと、駐在員は苦しくなります。
本来、日本側は、下宿した子供を扱う親のような態度でいなければなりません。自分の子が初めて親元を離れて下宿したら、普通は「元気にしてるかな」「ちゃんと食べてるかな」といろんなことを心配しますよね。
子供は自分で新しい生活を築いていこうと一生懸命で、親の気持ちなんて考えてないわけですが、それでも親は「連絡がない!」なんて怒りません。電話したり、手紙書いたり、何かと世話を焼いたり、相手の状況に思いを馳せたり、時には様子を見に行ったりします。
日本の本社も、駐在員の日常に関心を持って、何かあったらこっちからフォローしなきゃという姿勢でいるのが筋。しかし、現実にはほとんどの会社は逆です。悪気はなくても、日本側の「無関心・無遠慮・無神経」は駐在員を傷つけます。
家族が病む
もう一つの意外なダメージは家族です。帯同したケースでも、単身赴任で日本に残してきたケースでも、家族が病むことはあります。帯同の場合、特に最初の半年間は気をつけていただきたいと思います。
まずは家族との会話の時間が減ります。上司が連日連夜連れ出すタイプの人だったりすると、なかなか帰って来ない。家族も異国の地で孤軍奮闘していて話したいことはたくさんあるのに、午前様になれば相手も疲れていて、話を聞く気力もなく「もう遅いからシャワー入って寝る」。こうなると会話の時間は減ってきます。日本と中国で生活時間がずれてしまったら尚更です。
それから、お互いが聞いてほしい側になり、相手の話を聞く余裕がなくなります。例えば、妻は現地で遭遇したことを共有したいのに、上司の愚痴ばかり聞いている夫はむしろ自分が吐き出したい。どっちが悪いという問題ではないですが、双方が苦しくなっていきます。
帯同家族は孤独です。「子供と一緒なら孤独じゃないでしょ」は違います。思い通りにならない子供と一人で向き合うのは大変です。外国だと実家も頼れない、身近に友達もいない。一方、駐在員は夜遅くまで仕事、あるいは付き合いでお酒を飲みに行ったりカラオケに行ったりしている。
配偶者は特に子供が小さいと気軽に外出もできず、家の中にいる時間が長くなっていきます。よっぽど社交的な人でない限り、この状況は危険です。
赴任者は家族に対して、自分が日本側に感じることの鏡だと思うといいかもしれません。家族に「無関心・無遠慮・無神経」になっていないか、自分が日本側に対して「こういうのは嫌だな」と思ったことは、そうならないようにケアをする。大変だと思いますが、負の連鎖を食い止め、逆転させていくためにも、駐在期間は特に家族を大事にしてください。
1年目の心の準備
半年は慣らし運転
現地で意外なダメージを受けないようにするには、行く前の心の準備が大切です。
一つは、半年は慣らし運転と考えておくことです。仕事、上司の期待、プレッシャー、いろんな課題があり、気合いも入っているかもしれませんが、飛ばしすぎはダメです。
アクセルが踏めるからと言って、いきなり踏んではいけない時もあります。気づかないところで過度のストレスがかかったり、自分自身を追い込んだりすることがないように、半年ぐらいは慣らし運転気味に入ることを強くお勧めします。
現地に行ってみて、アクセルどころか「生活だけで精一杯、こんなんでやってけるのか…」と心配になっている方、安心してください。それが普通です。
「オレはそんなことなかったけどなぁ」とか言ってくる先輩駐在員がいるかもしれませんが、その人がイレギュラー。無理してリズムやバランスを崩してしまうと、自分自身にも大きなダメージですし、大事な人たちにも心配や迷惑をかけます。
逃げ場を作る
密な関係が避けられないからこそ、あえて逃げ道を作りましょう。毎晩飲みに誘ってくる上司に、いきなり「私は行きません!」とやってしまうと仕事がイバラの道になりますから、週に何回かは付き合って、何回かは逃げます。
「子供の世話を交代しないと離婚されるんで」「これから中国語レッスンなんです!駐在中にマスターします!」など、早めにキャラを確立してしまってください。無理して付き合った挙句爆発しないように、上手に逃げ道や息抜きの機会を作るようにします。
若い駐在員にしかできないこと
特に若い人は、現地社員と仲良くするといいと思います。上司がパワハラ気味なら、現地の社員だって辟易しているはず。「敵の敵は味方」、現地社員と同じ側に立つことで共感が生まれます。
それに、若い時にトップではない立場で赴任する方は、再登板の機会が巡ってくることが多いです。現地の社員との関係づくりができていると、何年か経って、もっと上の立場で赴任するときに役立ちます。
現地社員にしてみれば、中国総代表のような偉い立場の年配駐在員には恐縮してしまい、等身大で付き合うのはちょっと難しいですよね。若手駐在員なら、年上には可愛がってもらえるし、同年代の本音も聞けるし、対等に付き合えます。
時には一緒に食事に行くとか、自宅に招かれることがあるかもしれません。そうすると現地の実情をより深く知る機会にもなり、将来にとって決してマイナスではないと思います。
今日のひと言
中国駐在はストレス源がいろいろあります。とにかく無理はせず、特に最初は家族や大事な人を大切にしてください。そして、全責任を負っていない若手の立場であれば、まずは現地の言葉を少しずつ学びながら、現地の文化や価値観、考え方を学ぶ機会にしましょう。これは若手駐在員以外の立場ではなかなかできないことです。
2024.04.26 note
この記事を書いた人
多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。