コラム
中国駐在員が赴任中にやっておくべきこと5選
中国に駐在しているほとんどの皆さんには「帰任後」が待っています。そして私は中国駐在で学ぶこと(学ばされること)は、その後の仕事人生でかなり役に立つと思っています。今回は、駐在員が中国にいるうちにやっておいた方がいいことを5つ、私目線で紹介します。
記事の末尾に動画リンクがあります。
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後悔しないために…現地でやっておくべきこと
中国語以外で考えてみる
中国駐在員が赴任中にやっておくべきことと言うと、最初に出てきそうなのは中国語の学習ですが、今回は入れませんでした。
そりゃ習得できたら素晴らしいですけど、「もう任期が折り返しを過ぎてる」とか「そろそろゴールが見えてきた」というときに「中国語を学びましょう」と言っても仕方ない。というわけで中国語の話は出てきません。
今回の前提は二つ。一つは、帰任後も仕事人生が続くという仮定で考えました。だから「今回の駐在は自分の仕事人生の集大成。日本に帰ったら悠々自適だ」という方にはあまり関係ないかもしれません。
もう一つは、中国の事業環境はかなりハードだということ。駐在で各地を渡り歩いたベテランの方々に聞くと、中国はやはり大変だと言われます。中国駐在は「虎の穴」(50代以上しかピンと来ないかもしれませんが)、ここでハードに鍛練しておけば、他へ行ってもそうそう怖くない。そういう赴任地であるという前提で考えてみたいと思います。
①中国のDX
最初に挙げるのは中国のDXです。ぜひ見ておきましょう。政府や銀行、日常生活、仕事、どこへ行っても基本的には日本よりITの使い方が長けているし、はるかに進んでいると感じます。20年前の中国と比べればとてつもない進化です。いまは世界でも最先端と言えるんじゃないでしょうか。
TwitterをXに変え、スーパーアプリにしていきたいと語ったイーロン・マスク。彼が意識しているのは中国の微信(WeChat)だと聞きました。
確かにWeChatは生活も仕事もこれなしには考えられないというスーパーアプリになっています。最先端のチャレンジを続けているマスクがそこを目指している。この一点から考えても、DX分野で中国は相当進んでいると思います。日本あるいは世界がこれから行く道の一端を中国で見ておいて損はありません。
②中国の流行
流行というのはだいたい若い人が作るもの。ぜひ中国の若者の流行を見ておいてください。
日本で「タイムマシン経営」といわれる経営手法があります。アメリカで流行っているものは10年後の日本でも流行るという前提で商売を展開するやり方です。アメリカの流行をチェックし、いずれ必ず日本でも当たるということで、助走期間のうちに準備します。
当たるべくして当たるため、未来を見てきたかのように確実だというわけです。元々はアメリカに対して使われましたが、いまはアメリカだけではなくて中国も対象になってきています。
例えば、TikTokやSHEIN、インフルエンサーを使ったマーケティング。それからEV、ちょっと前ならタピオカミルクティーもそうですね。いま中国で面白い動きをしているものの中にも、いずれ日本で火がつくものがあるはず。
タイムマシン経営の一環として、中国の流行を見ておく意味はあると思います。特にマーケッターの皆さんにおすすめです。
ちなみに、いま私が気になっている中国の流行はアレンジドリンク。普通はコーヒーやティーに少しトッピングしたりブレンドしたりしますが、中国で流行っているのはかなり異質な食材を大胆に組み合わせたカクテルみたいなものです。日本でも流行るかもしれないなという気がしています。
それから、アフターEVの流行も見ておきたいですね。私は日本にはEV(BEV)全盛の時代は来ず、PHEVか別の規画の時代になると思っていますが、BEV一色という様相だった中国もすでに次の流れが来つつあります。
EVが広まった後に何が起きるのか、EVを廃棄した先に何が待っているのか、EVに一通り乗ってみた後はどんな車が欲しくなるのか。こうしたことがまさに中国で繰り広げられようとしています。ここで見ておくと、これから世界各地の車業界で起きそうなことのヒントになると思います。
③社内外の人脈
社内でも社外でも、できる限り人脈をつくっておきましょう。何年もかけて仲良くならなくてもいいんです。顔見知りになっておく、「これからもよろしく」と声をかけておく程度で関係をつくることはできます。
これは再赴任に備えてではありません。今後、どこの国で仕事をしても、そこの人たちは何かの形で中国を意識しているはずです。競争相手として、サプライヤーとして、市場として、中国が登場する時代になっています。
中国での人脈があると、情報収集のルートがあるわけですから、どこへ行っても重宝されます。日本に戻っても他国に移っても、中国で培ったルートはビジネスに役立ちます。
④中国流の(P)DCA
中国のPDCAサイクルにはPがほとんどなくて、DCADCAと超高速で回しながらすごい勢いで経験から学び、調整をかけてモノにしていきます。このDCADCAの超高速回転はぜひ学んでおきたいところ。他国と比べても、この10〜20年間の変化のスピードはダントツで中国です。
外から見ていると、日本は特に遅いです。慎重に計画を立て、練り上げ、差し戻されてさらに磨き…とやっているうちに、市場では激しい競争が繰り広げられ、すでに大勢が決してしまっている。ようやく社内で「さぁやろう!」と気運が高まった時には、すでに数周遅れ。傍で見ていても歯がゆいものがあります。
中国流のDCADCAの超高速回転は、いまの時代、どんな仕事にも有用だと思いますし、私自身が完全にこのやり方に慣れてしまって、もうPDCAを回さずDCAでやってます。他国に行ってもこの中国流は使えると思います。
⑤中国流の弱点
最後に、中国流の弱点を理解しておくことです。いま中国は全体に景気がよくないですが、個社の水準はものすごく上がっています。技術、品質、新しいアイデアや挑戦、どれもレベルアップしている。世界のどこにおいても、プレーヤーとしての中国の存在感は間違いなくどんどん大きくなっていくでしょう。
「敵を知り己を知れば百戦殆(危う)からず」。駐在期間中は、最前線で中国企業のやり方を見ながら、強みはもちろん、弱みも見つけてほしいと思います。どうやったら彼らのペースにはまらず戦いを進められるか、弱みを突くためにこちらはどんな戦い方をすればいいのか。ぜひ中国にいる間に見たり考えたりしてください。
駐在員は最前線の貴重な経験者。現地で現物・現実を見てきたという経験は、日本に戻ろうが欧米に行こうが、非常に貴重な実体験として価値があります。中国流をよく理解した上で、向こうの弱みも自分なりに整理しておけば、どこに行っても有効だと思います。
今日のひと言
客観視すれば世界的な宝の山
中国駐在は、当事者にはハードでしんどいです。虚々実々の駆け引きもあります。大変は大変ですが、ちょっと引いた位置から客観視すると、中国での経験は世界中どこに行っても使える宝の山といえます。せっかくですから、ぜひ現地にいる間にいろいろ見たり、聞いたり、考えを深めたりしてくださいね。
2024.06.07 note
この記事を書いた人
多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。