コラム

再赴任ショック…元駐在員が無力感に襲われたワケとは

2024年06月21日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

中国は再登板する駐在員が多い赴任先です。私の周りでも少なくありません。そんな再赴任者から気になることを聞きます。

先日も「久しぶりに来てみたらショックだったよ。前回の赴任時に自分主導で仕組みをつくって、最後の仕上げ段階で帰任になったから『後はみんなでよろしく!』って帰ったんだけど、10年経って来てみたら、まったく動いていなかった」と聞きました。

帰任後の現地の様子を聞いて、愕然としたりガッカリしたりということは意外と多いです。どうしたら自分の残したものが現地で定着するのか。せっかくですから効果的な仕事の仕上げ方・残し方を工夫してみましょう!
 

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
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再赴任時のショック

中国に再赴任した人は、どんなことにショックを受けるのか、実際に聞いた話をざっと並べてみます。

構築したのに、導入していない

苦労して仕組みや規定を構築し、みんなに「導入してくれよ」「後は任せた」と言ってきたのに、数年後に行ってみたら、まったく導入していない。これは大ショックですよね。「あんなに頑張って一緒に構築したのに……」と言いたくなる。

導入したのに、運用していない

構築だけでなく導入までしたのに、全然運用されていない。「あのとき導入したのは一体なんだったんだ」と無力感に襲われる。

運用開始したのに、昔に戻っている

在任時に運用も始めたはずなのに、制度を変える前の状態に戻ってしまった。これも徒労感を覚えます。

警告したのに、骨抜きにされた

後任者に「何年も戦って、ようやく新しい仕組みを入れた。今度は頑張った社員から順に公平に報われる仕組みにしたので、どうか頑張って運用維持してください。油断すると骨抜きにされるからね」と警告したにもかかわらず、結局骨抜きにされてしまった。

問題社員たちが復権している

牙を抜いて、あと一歩というところまで追い詰めた問題社員が、なぜか復権。かつて戦った駐在員の再赴任は向こうも嫌だろうが、こちらも唖然とする。

大掃除したのに、また跳梁跋扈

帰任前に解雇すべき社員はバッサリ解雇して、「もう同じ轍を踏まないように頑張ってくれ」と言ってきたのに、新たな問題社員が発生し、社内が同じような状況に陥っている。

 
私も何度も見たくない光景を…

私自身も、総経理が交代した後、「せっかく前任の総経理とあそこまで持っていったのにな……」と思うことはよくあります。失礼な言い方をすれば、前任者の努力を台無しにしてしまう、時計の針を逆に戻してしまう後任者は少なくないです。

やっと公平な制度にしたのに、自分のやり方でやりたいからと言って昔のようなお手盛りの制度に戻してしまう。

問題社員に悪用されまくっていた、穴だらけの規定を入れ替えたのに、過去に使っていて馴染みがあるというだけで復活させてしまう。

不幸なケースでは、そのために組織運営がうまくいかなくなり、赤字を垂れ流した末に撤退まで至ります。そういう総経理には、途中で「もう小島のうるさい話は聞きたくない」と顧問契約を切られてしまいますので、私たちも後から風の便りで知るのですが……。

こういうのは本当に見たくない光景です。強い思いを抱いて頑張った駐在員ほど、それが形になっていない、結果に貢献していないとなれば、失望も大きいでしょう。この気持ちは私も非常によくわかります。

 
どうすればいいのか

では、どうすればいいのか。赴任が1回目の人は将来そうならないように、2回目の人は「今回こそは」という思いを込めて、ぜひとも聞いていただきたいです。

駐在三年の計

「駐在三年の計」。これは私が提唱する駐在任期3年を有効に使おうという考え方です(4〜5年の人は少し余裕があってラッキーと思ってください)。

通常、特に準備なしに任期に入ると、1年目は「慣れる」、2年目は「いろいろ見えてくる」、3年目で「仕掛けだ!」となります。が、3年目にはもう任期の終わりが見えているし、引き継ぎも考えなければいけません。仕掛けが形になり成果を出して定着するところまで行かずに終わってしまいます。

逆算すると、3年目に時間を使うべきは定着・継承。自分の仕掛けが確実に運用され、展開していくところまで見届けなくてはなりません。

そうすると、何かの仕掛けをするとしたら2年目しかない。再登板なら1年目から勝負に出ることも可能なので最長2年を使えます。任期が4〜5年あれば、仕掛けに2〜3年を使い、残り2年を確実に定着させるために使うのがいいと思います。

ただし、初めて赴任する方は、1年目で仕掛けてはダメです。急ぎ過ぎると足元をすくわれます。改革が形だけになり、裏側に潜んでいる問題社員にきっちり釘を刺すことができなくなる。1年目はいきなり仕掛けるのではなくて、まずは観察して関係づくりをし、社員たちの表と裏を見極めてから勝負に出てください。

赴任回数にかかわらず共通しているのは、最後の1年、できれば2〜3年を定着のために使うこと。任期ギリギリまで勝負せず、定着のために時間を残しておいてほしいと思います。

 
後を任せても定着しない前提で対策を

せっかく改革しても、「後は任せた」と帰任してしまえば定着しないのが世の常。自分の任期の間に固める前提で進めていかないと、最後は非常に残念なことになります。定着させるためのポイントを挙げていきます。

①在任中に運用まで

任期中に導入まで、または導入にも至らず時間切れに終わってはダメです。自分の代で、必ず運用まで行います。できればひと回りはさせたいところ。そのための時間を取っておく必要があります。

②新しい時代の幹部を登用/育成

任期中に、自分が仕掛けた改革の意義を理解している社員を育成・登用しておきます。後からなし崩しにしそうな連中は上位層に残さず、幹部は「挑戦・成長・貢献した人から正当に報われる環境づくり」に賛同してくれる社員たちで固めます。

③後任との併走期間を設ける

後任者が改革の意義を理解しないままに自分の馴染んだ制度に変えてしまったり、しっくりこないからと勝手に止めたりしないように、きちんと話をしておきます。なぜこういう改革をしたのか、確実に腹落としした上で、後任者の任期も使って定着させてくれるように伝えます。この引き継ぎにはしっかり時間を使う必要があると思います

④本社を巻き込む

現地だけでは不安がある場合には本社も巻き込みます。これは私もよく使う方法です。交代前に前任者から本社と後任者に顔つなぎしてもらい、着任後に現地で違うことを吹き込まれて崩れないように、赴任前から私も入ります。③の併走期間を設けるためにも本社を巻き込む必要があるかもしれません。

⑤外部を巻き込む

20年近い付き合いの会社さんでは、むしろ私たちが「語り部」のようになっていることもあります。社外のパートナーも施策継承のために巻き込んでおけば、社内での継承断絶リスクを下げることができます。

幹部・仕組み・習慣化・後任・本社、そして我々のような外部、ここまでガチガチに固めておいて、何とか運用を維持できるかというところだと思います。自分の手がけた改革が潰されないための仕掛けをしておかない限り、漠然と後に期待するだけでは残念な結果で終わります。

 
目的・背景・要点を十二分に共有

周囲を固めるときには、現地の幹部登用でも、後任でも、本社でも、外部でも、なぜ改革したのか、改革するに至った背景を確実に伝えなければなりません。過去どんな歴史があったのか、どんな戦いがあったのか、どんな失敗があったから今ここに至ったのか。改革がなし崩しにならないためのポイント、面倒でも変えてはいけない点、自分一人の判断で裁量権を発揮することの危険性などを十二分に共有しておくことが大事です。

 
誰かの裁量で簡単に崩れない仕掛けを

誰かの裁量で簡単に崩れない仕組み化・ルール化を図っておきます。「誰か」というのは後任者の場合もあるし、現地の問題幹部や日本の新しい役員の場合もあります。ここまでしないと、なかなか5〜10年後まで自分の改革が発展・継承されるには至りません。

なかなか大変ですが、ぜひ挑戦・成長・貢献した人が正当に報われる、自立発展を続ける拠点化のため、できる限りの手を尽くしてください。我々もパートナーとして、できる限りのお節介を焼きます。

 
今日のひと言

自分で固めないと託しても無理

自分が手がけた改革を、誰かに固めてくれと依頼しても無理です。自分で固めて残すつもりで仕掛けてください。任期のうちに、そのための時間を十分に取っておいてほしいと思います。

 

 
2024.06.21 note

この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。