コラム

中国現地での採用面接…準備不足=ダメ人材とは限らない

2024年07月12日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

中国拠点で現地社員を採用する際、面接でのチェック事項や判断基準を整理・明確化していますか。

日本だと、まずキャリアシートの中身や整理度合いで選抜するでしょうし、面接では服装や持ち物を含む準備レベルが足切りの要因になりますよね。

中国でこういう判断はしない方がいいという話です。
 

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
記事の末尾に動画リンクがあります。

 
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人材採用の原則

これは中国拠点だけでなく海外全般に通じる話です。

また、採用においてブランドや知名度、パワーに劣る中小企業や、これから従業員を採用していこうという起業家にも当てはまると思います。

最初に人材採用の原則を確認しましょう。

原則① 採用の失敗は育成で取り返せない

「どうして採用の失敗は育成で取り返せないの?」という人はこちら↓の動画をどうぞ(1.5倍速とかでさっくり)。要は戦略の失敗を戦術で取り返せないのと同じです。

 

原則② スペックより自社方針に適う人

学歴や資格などのスペックより、自社の方針に適う人を採用すべきです。「どうして?」という人はこちら↓の動画をどうぞ。何度も動画紹介で省略しちゃってすみません。端折らないと一篇に収まらないので…。

 

原則③ 採用は経営課題。トップ関与は必須

採用は経営課題です。人事任せ、各部署任せにしていては話になりません。トップの関与は必須です。

人が入れ替わってもかまわない現場、外注・派遣に切り替えてもいい部署やポジションを除き、これからいい人材を採用したい、会社の将来を担っていく人材を採りたいという場合は、この三つの原則に沿って採用を進める必要があります。

 
トップが関与しないとダメな理由

①人事部署では人材像を描けない

トップが関与しないとダメな理由は、人事部では求める人材像を描けないからです。これからの事業環境、会社の方針、業界における現在の立ち位置や今後とるべき戦略・戦術を踏まえて人材像を描くことができたら、その人事部員は経営者になれます。経営者が描けないなら交代した方がいい。

求める人材像を描くのは経営者の仕事。この仕事は経営者にしかできません。経営者の描いた人材像に適う人を採用する施策を考えるのは人事にもできますが、求める人材像を描くのは、経営課題や経営方針に責任を負う経営者の仕事です。

②人事部に攻めた採用は無理

人事部中心では、攻めた採用はできません。攻めた採用をすると、当然、入社する人材の振れ幅が大きくなります。一緒に働いてみるまでどちらに転ぶかわからず、失敗すれば経営者から叱られたり、自分の評価が下がったり、他部署から文句を言われたりします。

人事部だってそんな事態はイヤですから、任せられれば攻めた採用はしません。人事が仕事をちゃんとやらないのではなく、当然の帰結です。

それを避けるためには、経営者が「自分が『こういう人材を採用してほしい』と人事に頼んだ。文句がある人は直接私に言ってくれ」と宣言し、人事部には「大いに冒険してくれ」と言うことです。そうしない限り無理だと思います。

③各部署任せでは補充採用になる

「人がほしい」と手を挙げた部署に任せると、基本的には補充採用になります。

補充採用は、今までと同じことができる人がほしいのが普通。または猫の手も借りたいほど忙しいので「猫の手以上になればOK」という基準で採用しがちです。

これでは、今後の事業環境の変化や会社としての方針を踏まえて、将来的に必要な人材を採るという発想にはなりません。各部署にとって切実な課題は「いま目の前にある欠員」ですから仕方ないです。

各部署任せでは部分最適になる

同様に、各部署に任せておくと、どうしても部分最適で、自部署で使い勝手がいい人を採用しようとします。「部署としてはちょっと手に余るかもしれないけど、会社全体の将来を考えたら、こういう人材を採って育てないとね」…といった人材は採れなくなります。

やはり採用は経営課題として本気で取り組まなければならない
これが私の結論です。

 
準備レベルで判断しない

ここまでのおさらいを踏まえて、本題に入ります。求職者を面接する際、準備レベルで判断してはいけないという話です。

なぜ準備レベルで判断してはいけないか。結論を先に言えば、海外では求職者の準備レベルと優秀さが正比例しないからに尽きます。準備レベルで評価しても意味はないです。理由を挙げていきます。

①日本以外ではそういう常識が形成されていない

日本以外の国で、日本的な採用選考への準備レベルを問われるのは常識ではありません。日本の常識を他の国に押しつけるのは傲慢でズレた行為。そもそも現地で通用しません。

日本では、特に求職者が列をなすようなブランド力のある大手企業だと、まずはエントリーシートや自己PRで自己に対する理解や分析を見ます。それをクリアできている前提で、業界や自社に対する理解と分析、関心事などをフィルターにして見定めようとします。

これはいわば会社が設定する初期フィルター。クリアできていない人は早い段階で足切りされます。

でも、中国をはじめ他の国で、このような準備は当たり前でも常識でもありません。「就社」という概念がありませんし、エントリーシートのように提出書類を練り上げるといった習慣もありません。

だから、自己分析や会社研究もしていない人材は論外だ!などと足切りしていると、こちらから声をかけても採るべき人材はいなくなってしまいます。

②日本の大企業だって海外ではマイナーチーム

上述の日本企業の習慣は、ある意味、求職者に対する会社側のマウンティングとも言えます。「ここまでやってこなければ門前払いですよ」というわけですね。

しかし、そんな態度は日本の外では通用しません。日本の超大手でも海外に出れば「その他の外資企業」の一つ。社名すら聞いたことがないという人もいます。むしろそっちの方が当たり前。

現地のテレビやインターネットで広告宣伝をバンバン打っているような会社でない限り、現地の人は日本の会社など知りません。自分たちはメジャーではなくてマイナーチーム。据え膳でいい人材を採用できるほど甘くはないです。

また、日本と比べて中国は人材の振れ幅が大きいです。上下左右、いろんな意味で振れ幅が激しい。優秀な人材は当然、有力企業が取り合います。かつ自社に合う人材となると、母数が本当に希少です。

少ない母数の中から、優秀で自社に合う人材をどうやって見つけるか、どうやって自社に関心を持ってもらうか、真剣に考える必要があります。ここを疎かにすると、探しても探しても求める人材に合致する人がいないという事態になります。

③努力・工夫は会社側の仕事

採用面接の事前準備は求職者がするものではなく、むしろ努力や工夫をし続けるべきなのは会社側だという認識を持つ必要があります。

優秀な人材ほど、面接は会社が自分を見定める場であると同時に、自分が会社を見定める場だという意識を持っています。自分が会社のためにどう貢献できるかだけでなく、この会社のボスは一緒に仕事する価値があるか、この会社は自分にやり甲斐ある仕事と処遇を提示してくれるかを見定めている。

逆に、日系慣れしている人材なら誰でもできるのが事前準備。準備重視主義は、事前準備してきた人材の評価を不当に高くしてしまうリスクもあります。人材の本質・潜在力は自分たちの目で見極めないと危険です。

当社について全然調べていないとか、当社にどう貢献できるのかも明確に答えられないとか、マウントを取っている自覚すらなく、事前準備でフィルターをかけている会社に、現地の優秀な人材は見向きもしません。実際、これが少なくない日系企業の海外採用の実態だったりします。

 
今日のひと言

事前準備はむしろ会社の責務

事前に準備しなければいけないのは、むしろ会社です。

求職者の事前準備を一切フィルターに使うなとは言いませんが、やたら重視したり、一律で足切りにしていては、いい人材は採れません。

いい人材と出会う工夫をする。いい人材を見極める手間をかける。いい人材を惹きつける努力をする。こちらから採りに行かなければ「いい人材」とは出会えない時代になっています。
 

 
2024.07.12 note

この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。